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あれからどのくらい経ったのだろう。
気がつくと日が傾き始めていて、私は慌て立ち上がると屋敷へと向かった。









「どうやら怪しまれずに済んだわ…」

吐息を零して夜空を見上げる。白くたゆたうそれが消え、煌めく星々が眼前へと広がる。

冷えた夜風が身体を撫で、背筋がゾクリと粟立った。
それを少しでも和らげようと膝を立てた上に両腕を乗せ、鼻から下をそこへと埋めて息を吐く。
辺りへと意識を集中させるが感じる気配は見知った人物と森にいる動物たち。
今日も何事もなく過ぎてくれればいいと思いながらも、頭の中では今朝の光景がチラついていた。

「何で、諦められないかな…」

「何を?」

独りだと思っていた空間に呟いたそれに返答があり、驚き振り返る。
前にも同じ事があったと頭を過ぎり、そこに立つ人物に今度は瞠目した。

「やっぱり」

「…へ?」

少し呆れたように呟かれた言葉に間の抜けた声を上げると、隣へと歩み寄ってきた佐助が何かを私へと投げ被せた。
真っ暗になった視界に一瞬動揺するも、それが布だと分かれば一気に脱力する。
もそもそと身じろいで顔を出すといつぞやと同じ光景に苦虫を噛み潰したような気がした。
これが昨夜みた夢の意味なのかと、鶯色の羽織りから香る慣れた匂いにつられるようにそこへ視線を向けて口を噤む。

意識しないように、下げた視線のままでいると不意に頭部へ軽い重みを感じ不思議に思っているとやんわりと髪を梳くようにそれが流れ、次いで頬へと触れる。
じんわりと冷えたそこを暖めるような温もりに、それが佐助の手なのだと知らせた。

「アオイ、秋もう終わる。夜冷える、薄着駄目」

子供を叱るような佐助の表情に苦笑して、彼を見ないままハイハイと答えると、布擦れの音がして自身の左側がほんのりと暖かくなった。


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