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ルキーノさんに連れてこられたのは倉庫と建物の間、ちょうど死角になっている場所で、またいい感じに人気もなく、こういう会話をするには適した場所だった。

「俺に何か用ですか?」

「"猫"の次は"犬"になったのか?」

「は?」

「ジャンのご機嫌取りに精を出してるっていうじゃねぇか」

あぁなるほど、それで"犬"か……的確過ぎて感心してしまう。
それがどうも口に出ていたようで、ルキーノさんが何とも呆れたような面白い表情をしていた。

「アハハ、すみません…あまりにも的を得ていたのでつい……俺、決めてるんですよ、残りの人生ジャンに捧げるって」

「そりゃまた…何でだ?」

盛大なため息をついた後、ルキーノさんは壁に背を預けてタバコへと火を点けて一口呑むと、すぐにそれを捨てて"美味い葉巻が喫いてぇ"と呟いた。

「…よかったらこれ、どうぞ」

「!、シガレットじゃねぇか!どうしたんだコレ」

紙巻き煙草を1本差し出すとルキーノさんは驚いた表情で受け取り、タバコを一通り眺めると俺へと視線を向けてきた。
そりゃそうだ、ムショではあまり見かけない高級タバコ。
俺も……交渉を上手くいかせたいがどんなモノで取引すれば有効かと、相談したベルナルドから数本わけてもらったのが現状だ。

「交渉するのには不可欠、ですから…持ってる本数が少ないので、今はコレしか渡せませんけど」

「グラッツェ」

「プレーゴ……っと、話の続きでしたね……俺はジャンに恩があるんです、一生掛かっても返せるかどうか分からない程の……それに…果たしたい"約束"も、ありますから」

少し自分で言ってて照れ臭くなる。
ジャンには言ってないが、これは俺の勝手なわがまま…彼を好きになってから、ジャンのために何か出来ればと思っていた。
この気持ちを打ち明ける事はできないけれど。

「あの金髪ワンワンに、ね……アオイ」

「はい」

「本当にお前、面白いヤツだな……他の連中はどうか知らんが、俺は信じるぞ…まぁ、完璧にとまではいかんがな」

「それで充分です、ルキーノさん」

タバコをふかしながら笑うルキーノさんはこれまた男前で、兄がいたらこんな感じだったんだろうかと考えてしまう。

「困った事があれば言ってくれ、力は貸すさ」

「ありがとうございます!」

去っていくルキーノさんの背中に一礼して、俺はもう一仕事をするために踵を返した。





そしてちょっと、いやかなり気まずい場面に遭遇してしまった。
只今俺の心臓止まったんじゃないかな……

「アオイ!?」

ジャンが俺を見て驚いたように目を見開く。
いやもう、うん…なんか………すみませんでしたッ!!

走り出そうとしたがパーカーのフードをがっしりと掴まれてしまい、後ろにグンッと身体が傾く。
あ、脱げばよかったんだと気付いたのは、ジャンに無理矢理ベンチへと座らされた時だった。






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