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部屋についてどれくらい経っただろうか……
シャワーを浴びてタオルを腰に巻いた状態で渇いた喉に水を流し込んでいた時、コンコンとノック音がした俺は慌てた。
このまま出るのは些かマズいのではないだろうか、と。
軽く着替えるべきだとクローゼットへ足を向けようとした時だった。
切羽詰まったような声が"早く入れてくれ"と俺を急かしたのは。
聞き慣れた声に俺は小さく息を吐いてドアへ向かった。

「こんな夜更けにどうしたの…………って、ナニソレ」

「お泊まりセットに決まってるだろ?…ってか何でタオル1枚?」

「風呂上がったばっかなんだ…それより着替えなかったの?浴衣のままって」

ドアを開ければ勝手知ったる何とやら、ズカズカと室内に入ったジャンは抱えていた枕ごと俺のベッドへとダイブしていた。
ゴロゴロとあっちへこっちへ行ったり来たり、そんなジャンを見ながらワシャワシャと乱暴にタオルで髪を拭う。

「………着替えてる余裕、なかったっつーの」

余裕がなかったという彼に小首を傾げてベッドへ歩み寄り、そのまま腰掛けると起き上がったジャンが背中へと抱きついてきた。
合わせ目にあしらわれたレースが背に当たってくすぐったい。
ぴとり、当てられた柔らかな感触はジャンのほっぺただろうか、すり寄る仕草を感じて甘えているんだと思うと自然と笑みがこぼれた。

「ひとりで着替えらんなかった?」

「……………」

「どうかした?ジャン?…甘えたいだけ?」

「………」

「ジャン、いくら俺でも言ってくれなきゃ分からないよ」

黙りこくるジャンに言い聞かせるよう告げると、回された腕に力がこもるのを感じた。
優しくその腕を解いて、向き合うようにすれば俯いていて、しょうがないなと今度は俺から向き合う形で彼を抱き締める。
背を優しく叩いてやると回されてきた腕に首もとに埋められた顔。

「アオイの……」

「うん」

「アオイの話怖すぎだし…終わったら一人でサッサと行っちまうし、部屋戻ったら何か余計怖くなって……」

「…うん」

「思い浮かんだのがアオイで、気が付いたら枕抱えてアオイの部屋の前に来てた」

そっか、そう言って背を撫でながら彼の頭に頬を寄せる。
初めてやった怪談は思いの外恐怖を与えてしまったらしい。
やはりこういった趣向は外国ではウケないんだと納得していると、ジャンが徐に顔を上げて"寝てくれる?"なんて冗談めかして言ってきた。

「いいよ、責任取って毎日でも一緒に寝てあげるから」

「痛くしちゃヤーよ?」

「…冗談言える元気あるなら自分の部屋で寝るかい?」

「なッ!?ちょ、嫌だって!も、もう言わねぇから!!な?追い出さないで…!!」

必死になるジャンに笑って立ち上がる。
クローゼットへ向かい、適当にパジャマになりそうなシャツを取り出してジャンへと投げて渡す。
自分の着替えを済ませてジャンの脱衣を手伝ってやり、ランプを灯してから部屋の明かりを消した。
ベッドに身体を横たえるとすり寄ってくるジャンに、腕を伸ばせば頭を乗せてくる。

「ジャンとこうやって寝るの、久々だな…」

「最近忙しかったからな……アオイの腕枕なんてムショ以来じゃね?」

色々あったなぁ…なんて感慨しく呟くジャンにクスリと笑って引き寄せると、嫌がる素振りも見せず大人しくされるがままになっている。

「アオイ……」

「ん…?」

「おやすみ」

「ハハッ……うん、おやすみジャン…いい夢を」

「ん」

程なくしてすやすやと穏やかな寝息が聞こえてきて、俺もその寝顔につられるように夢の世界へと落ちていった―………







翌朝、気持ち良さそうに腕の中で眠るジャンを見て、もう少しだけこのままでいようと瞼を閉じたこの時の俺は、数時間後二人揃って仲良くベルナルドに説教を食らう事になるなんて、知るよしもなかった―………




END


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