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部屋を出て自室へ向かうべく廊下を歩いていると、パタパタと後ろをついて来る足音がする。
何か急いでいるのか?そう思い道を開けようとした俺の肩をガシッと、その足音の主が掴み引き止めた。

「―……って、ベル、ナルド?」

「っ…ハァ…ったく、歩きにくいなユカタというヤツは」

ステキなお顔を歪めて、ベルナルドはブツブツと文句を垂れる。
あまり見ない彼のそんな姿は貴重だと見つめていれば、こちらの視線に気付いたようですぐにいつもの困ったような顔を向けてきた。

「声を掛けてくれれば止まったのに」

「あぁ、歩くのに精一杯で忘れていたよ……それよりアオイ、モノは相談なんだが……」

「……?」











―…………
っと、いうわけで……

「すまないね、無理を言ったんじゃないかい?」

「そんな事はないよ、それで?何をすればいい?」

「そこの書類の確認をしてくれ……たぶんジャンのサインだけで済むはずだが、万が一があっては困るからね」

そう、只今ベルナルドに頼まれて……いや、拝まれて?俺は彼の仕事部屋へと来ているわけだ。
"俺一人じゃ今日中に片付くかわからん、頼む!付き合ってくれ!"
…なんて言うからどんだけ仕事を溜め込んだんだと思っていたが、流石はベルナルド…無駄が無い上に量が少ない。
ってかこんぐらいなら別に焦る必要なんてなかったんじゃないだろうか?

言われた通りに書類に目を走らせながら納期の近い順へと並べる。
その間、ずっと視線を感じるんだけど……あれ?ベルナルド仕事は?
気になって振り返るとバッチリ目が合った。
けれどそれもすぐに逸らされ、何とも言い難い雰囲気が漂う。

そこで不意に見えたベルナルドの手。
万年筆を握る手が、微かにだが震えている。
顔色を窺えばやはりと言ったところか、少々血の気が引いている、そういった顔をしていた。

たぶん、俺の予想が間違っていなければ……

「ベルナルド」

「ん、ん?何かあったか?」

問題のなかった書類の束を整えて、それをベルナルドの座る机へと置いて彼を見つめる。
そっと手を伸ばして触れた頬は冷たく、本人は俺の突然の行動が把握出来ずに驚いたといった様子。
何だか申し訳なくて、年上の彼にするのはどうかとも思ったが、髪へと手を差し込み優しく梳くように撫でた。

「……アオイ?」

「独りきりになりたくなかったんだろ?」

「!?」

「ちょっとやり過ぎたみたいだね、ごめん……作り話だし、蝋燭も前もって俺が用意した物だから」

安心して、そう告げるとベルナルドは小さく息を吐いて苦笑した。

「まったくお前は……どうしてそう簡単にバレてしまうんだろうね……実はね、独りで寝る自信がないんだ」

笑えるだろう、大の大人が……頬杖をついたベルナルドは苦笑したまま俺へと視線を向けてそう告げる。
暗闇が普段よりも怖いのだろう、そう思うと怪談に乗り気じゃなかったのも頷けた。

「それならそう言えばいいだろ?ホラ、仕事なんてないなら行くよ」

「行くって……どこに…」






ベルナルドの腕を掴んで連れてきたのは俺の部屋。
半ば無理矢理部屋へ押し込めると適当なシャツを彼に渡し、ベッドメイキングを軽くしてから向き直った。
丁度着替え終えたらしいベルナルドは困惑というか、半笑いといったような表情で俺を見つめている。

「アオイ…」

「さぁ寝よう!」

「いやいや、お前が寝れないだろ?」

「寝れるさ!それに…俺にだけは言ってくれたんだ、こういう時は甘えてくれていいんだよ?ベルナルド」

「まったく、お前には負けたよ」

そう言って自らベッドへと乗り上げた彼に続いて、空けられたらスペースへと身を沈める。
電気を消してくれと言うベルナルドに従ってランプへと手を伸ばすと、腹に回された腕。
微かに震えるその手に自らの手を乗せ、指の腹で優しく撫でてやる。
しばらく続けていれば小さな寝息が背後から聞こえてきて、俺はそこでようやく安堵の息を吐いて目を瞑った―………







翌朝、目を覚ました俺に"やぁプリンセス、とてもステキな夜だったね"と髪にキスをするベルナルドを見て、冗談を言える余裕が出来たなら良かったと俺は微笑んだ―………




END




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