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部屋に戻った瞬間、部屋にノックの音が響き渡る。
こんな時間に何の用だと小首を傾げながら時計を見やれば0時を過ぎたところだった。
未だ鳴り響き続けるノック音に今行くと声を張り上げ、仕事じゃありませんようにと祈りながら扉へ手をかけた。

「やぁアオイ、酒でも飲まねぇか」

「…ルキーノ、さん?」

扉を開けて姿を現したのはピンクレッドの髪を纏めてにっこりと笑うルキーノさんで、その手にはブランデーらしきビンと氷の入ったグラス2つ。

「ぁ、どうぞ中へ」

「グラッツェ……お前の部屋に来るのは初めてだな、っと…それにしても殺風景な部屋だぜ」

部屋に招き入れるとルキーノさんは小さなテーブルへと持っていたそれらを置き、部屋をグルリと見渡してそう言った。
確かにインテリアは家具以外に何もないし、それらも全てベルナルドがどこだかの何とかっていう(結構有名らしい)家具を買い揃えてくれたものだ。
こんなんじゃ女にモテないぞと言ってくるルキーノさんに苦笑して、何かツマミになりそうなものを探す。

「花を飾るだのしたらどうだ?」

「興味ないし、ペットを3匹も飼ってるからもう手一杯だよ」

「ペット?どこにいる?」

俺の言葉を聞いたルキーノさんは足元へと視線を向けて探すような素振りを見せる。
そんな彼を見て俺はクスリと笑んで、チーズとクラッカーを乗せた皿片手にテーブルへと向かった。

「今日はいないよ」

「誰かに預けてるのか?」

「気まぐれなんだ」

「なんだ、ノラか……可愛いか?俺はレディと戯れる方が好きだがな」

腰掛けた俺を見て、辺りを探す素振りをしていたルキーノさんもテーブルへと近づき腰を下ろす。
酒を注いだグラスを彼に差し出して苦笑した。

「可愛いよ?毛並みはね、金と紫とブルーグレーの可愛い子犬」

「おい待て、そりゃ…」

鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をしたルキーノさんは、俺の表情で悟ったらしく次の瞬間には豪快に笑っていた。

「揃うと物を壊されかねないしね」

「確かに……っと、んじゃ乾杯といこうぜ?」

少しぎこちなく笑んだ彼に疑問が浮かんだが、グラスを持ち上げる様子に意識を取られてすぐに思考は酒へと持っていかれた―………










「……なんか、全然酔わねえ」

あれから1時間くらいしか経ってない。
時計をチラリと見て小さく、彼に聞こえない程度のため息を吐く。

「ボトル空けておいてよく言う……殆どルキーノさんが飲んでるよ?」

空になった酒瓶を指で摘んで左右に振ってふてくされたように言ってやる。
ルキーノさんはというと腕をテーブルに投げ出して、頭をそこに預けたままグラスの中の氷をカランカランと音を発てさせてボーっと見つめていて、何とも子供っぽい表情をしている。
今日のルキーノさんは普段と何だか違う気がするけど、どうかしたのだろうか?

「そういうお前だって顔色すら変わってねぇじゃねぇか」

そんな事を思っていた俺に、口を尖らせたルキーノさんがジト〜っとした目で見つめていた。
そりゃそうだ、俺はグラス4〜5杯しか飲んでないし、元より……自分でいうのもなんだが結構酒には強い。
この程度で酔う事はないのだ。

さて、どうしたものか……
絡み酒とかは勘弁してほしいし、俺は酒も入っていい感じ。
つまり眠れそうなのだ。
このまま目の前にあるベッドにダイブして、久々にきた睡魔に任せて深い深い眠りにつきたい。
ここは丁重にお帰りいただこうか…

「あんまり飲んでないからだよ…っふぁ〜ぁ、何だか眠くなってきたなぁ…」

「お、寝るか?」

これは好感触の予感とばかりに小さく頷けば、ルキーノは席を立ち上がりベッドへと向かっていく。
疑問に思い彼の行動を見つめていると、あろうことか俺のベッドへいそいそと入っていくではないか。

「え…ちょ、ルキーノさん!?」

「何だ…寝るんじゃないのか?」

「いやいやいや、アンタは何してるんだ?それ俺のベッドだし!」

急いで立ち上がり歩み寄って指差した俺に、それがどうしたと言わんばかりの顔でルキーノさんは見上げてくる。

「うわッ!!」

腰に手を当て見下ろしていた俺を見て、ルキーノさんはプッと吹き出すと不意に俺の腕を掴んでベッドへと引き入れた。
目の前にはアツい胸板、背には逞しい腕が回されホールド状態。
身動きの取れなくなった俺はただ大人しく、この素敵な拘束が解かれるのを待つことにした。

「……いい匂いだな」

「…そりゃどーも……あのさ、部屋に帰りたくないならそう言ってくれよ…追い出したりしないからさ」

出来るだけ優しい口調で告げれば、小さなため息を漏らしてバレてしまったかという苦笑混じりの声が聞こえた。
それからボソボソと端切れ悪く話した彼の内容を要約すると、だ……

お前の話しが怖すぎて寝れねぇだろう!責任取れ!!………って事だった。


「…カッツォ……この俺が」

「しょうがないから責任取って抱き枕になってあげるよ、ルキーノさん」

当たり前だと言いながら伸ばされた腕は優しく俺を抱き締め、耳元で聞こえる一定のリズムを刻む心音が俺に安心感を与える。
お互いほろ酔い気分に優しい体温が相俟って、小さく笑いあってからすぐ睡魔に身を任せる事になった―…………




目が覚めた俺の上に重たいライオンが覆い被さるようにして熟睡していたのは、また別の話―……。



END


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