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部屋に着いて時計へと目をやればもうすぐ0時を指そうとしている。

コンコン……

小さく響いたノック音に扉へと視線を向けると聞き慣れた声が自分の名を呼ぶのを聞いて、すぐに扉へと歩み寄った俺はドアを開けた。

「アオイ、さん…」

「ジュリオ…どうしたの?」

視線をさ迷わせながら浴衣の袖を掴んでモジモジといった様子を見せる彼に、ここではなんだからと中へと招き入れる。
後ろ手に扉を閉めてジュリオの様子を窺っていると、視線に気付いたらしい彼はこちらに向き直って俺を見つめてきた。

「何かあった?」

「ぁ…ぁの!……その…すみ、ません…っ、俺っ」

「大丈夫、落ち着いて……座ろうか」

唇を戦慄かせ、切羽詰まったように話し出したジュリオを宥めながらベッドへ二人腰掛けた。
固く握られた拳に手を乗せ、安心させるように背中をさすってやる。
しばらくそれを続けていると落ち着いてきたのか、ジュリオの身体から力が抜けるのを感じた。

「それで?何かあった?」

「……その、すみません……怖くて…っ」



…………怖い?

目を丸くする俺にジュリオは慌てたように俯いて、チラリチラリと目を向けてくる。
叱られた子供のような態度に小さく笑って頭を撫でてやれば、触れていた手をギュッと握られた。

「……怪談…」

「うん」

「アオイさんのは、他と比べものにならないくらい、でした……それにあの蝋燭…っ」

「あぁ!ごめんジュリオ…あの蝋燭は話を始める前に俺が用意してたヤツなんだ…」

もう一度謝って手を握り返すと安心したような吐息が聞こえた。
顔を上げたジュリオは安堵に微笑んでいて、俺より背もあっていい男なのに…こうも可愛いものなのかと思ってしまう。


落ち着いた彼に部屋に戻るかと訊ねれば、泊まってはダメかと逆に訊かれてしまった。
初めて聞いた彼の要求がコレだとは、もっと甘えてくれてもいいんだと伝えてベッドに入るように促してやる。

「…アオイさん」

「ん?電気消さない方がいい?」

伸ばしかけていた手をそのままに振り返る。
するとジュリオは被った毛布で口元を隠してこちらへと視線を向けていた。

「いえ…そうではなくて…甘えてもいいって、言いました…よね」

「うん、甘えたい?」

子供っぽい仕草に微笑んで踵を返し、どうしたのかと訪ねて髪を梳いてやる。

「一緒じゃ、ダメですか?」

「何を?」

突飛な質問に小首を傾げていると、少し思案するような仕草をして毛布から顔を出して見つめられる。
上目遣いがまた可愛らしい。

「……ベッド、一緒に寝るのは…ダメですか?」

なんて可愛らしい甘えだろうか。
潤んだアメジストがまた何とも…捨てられた子犬のようで甘やかしたくなる。

分かったとだけ答えて今度こそ電気を消しに行く。
うっすらとオレンジがジュリオを照らしていて、その表情が嬉しそうに俺を待っているものだからクスリと笑って足早にベッドへと向かった。

くっ付いてもいいですか?と訪ねてきたジュリオに腕を差し出すと瞳をパチクリさせて見つめてくる。
頭を乗せるように促して、抱き締めてやるとしばらくして俺の背へ、怖ず怖ずと腕が回されてきた。

「アオイさんの…匂い……」

スンっと鼻を鳴らして寄ってきたジュリオのサラサラな髪に指を通しているとそんな事を言われ、臭うのかと訊ねてみれば安心する匂いだと返された。

「ジュリオも良い匂い…さぁ、寝ようか」

「はい、おやすみなさい…アオイさん」

安心したのか腕の中からスゥスゥという規則正しい呼吸音が聞こえ、それにつられるように俺も眠りへと落ちていった―………




起きたとき、左腕の感覚が無かったのは言うまでもない……



END




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