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怪談は反時計回りで始まった。
俺を最後にしたいとの事で、ジャン、ルキーノ、イヴァン、ベルナルド、ジュリオの順で話をしていった。
これといって身の毛も弥立つ程でもなかったが、あ…ジュリオのは例外。
ある意味恐怖体験だった。

そして俺の番。
日本特有の引き込んで驚かせる、が一番インパクトがあるだろうと、うつむき加減で話し出す。

「……昔、さ……仲の良かった男友達3人でドライブに出掛けたんだって…」

ゆっくりと顔を上げて無表情に口を動かす。
一人一人と目を合わせるようにぐるりと見渡すと、全員期待しているような息を飲むような、そんな表情で俺を見ていた。
どうしよう、楽しくなってきちゃったな……

「馬鹿みたいに騒いで、夜中だから他の車も見かけない、そう思ってたらトンネルを抜けた少し先で、トボトボと歩いている女性がいてね、」

ぅわ、イヴァンもう怖がってる?
なんかジュリオも俺の浴衣の裾掴んできてるし……

「不思議に思った彼らは声を掛ける事にしたんだ……"ねぇキミ、こんな夜中にどうしたの?"…スピードを落として、女性と並ぶように運転していた男が窓を開けて声を掛けると"この先に用があるの"…そう答えたんだって」

はは、両手に花なのはいいけど……二人とも、ちょっと、痛い

「別段急いでいなかった彼らは女性を一人残して行く事なんて出来なくて、"よければ送るよ、乗って"そう言って後部座席へと彼女を乗せたんだ……それからしばらく走らせていたんだけど、彼女は俯いたままで…その場を和ませようと男たちは彼女に話しかけたんだ…助手席に座ってた男が"そういえば知ってるか?この辺で殺人事件があったらしいぜ?"それは少し前に起きた事件で、3人とも知ってる事だったから、犯人はまだ捕まってないだの、殺されたのは若い女だった、美人らしいだの口々に話し出したんだ…たぶん彼女が怖がるのを"俺らがいるから大丈夫"、なんて宥めて良い感じになりたかったんだろうね…」

チラリと見たベルナルドは何だか青い顔をしていて、ルキーノは冷や汗でもかいているのか袖口で顎のラインをなぞっている。

「すると突然"私知ってる"…彼女がそう言った…訊いてもいないのに殺害場所や方法、どこに棄てられていたのか…そんな事を口にしだしたから男たちは少しだけ気味が悪くなったんだけど、プライドってヤツかな、助手席の男が"そんなに詳しいなら犯人も知ってるんじゃないの?"って言ったんだ……そしたら彼女が……」

そこで少し間を置くと、全員が息を潜めてこちらが話すことに集中したのが分かった。
タイミングばっちりだ。
一度俯いてゆっくりと息を吸い込んだ俺は勢いよく顔を上げて言い放った。

「お前だッ!!!!」

指をさしたのが丁度イヴァンで、肩を思いっきりビクンッッと跳ねさせた彼を見てちょっと申し訳なく思う。
終わりだと告げる代わりにふっと息で蝋燭を消す。
けれど何故だか暗くならない室内に皆がちょっとざわつきだした。

「…なぁ、アレ……誰の蝋燭?」

隣にいたジャンが気付いてくれたようで、震えた手でそれを指差すと全員がイヴァンの後ろで揺らめく火へと視線を向けた。
慌てて蝋燭を消したイヴァンに次いで、ルキーノが部屋の電気を灯す。

「なかなか風流でよかったよ」

「なっ、アオイちゃん!どこ行くのよ!!」

立ち上がった俺にすがりつくような格好でジャンが口を開く。
不安そうな表情の彼を見下ろして、至極当然と言わんばかりに告げる。

「どこって、部屋に……もう遅いし寝ようかなって…皆もそろそろ寝た方がいいよ?おやすみ」

それだけ言って部屋を出た俺は、そこでようやく吹き出した。
まったく、最後のあの顔ったら……全員口あんぐりで固まるなんて……っ

イイモノ見たと、自室へと続く長い廊下を一人歩きながら思った。





分岐点


ここより先は個別ルートです。
エロはありませんが、各キャラありますのでお好きなページへ飛んでください。

*本につられる?→4ページへ

*震える仔犬を招き入れる?→5ページへ

*酒につられる?→6ページへ

*廊下で振り返る?→7ページへ

*枕を抱えた仔羊を助ける?→8ページへ


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