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ここアメリカにも平等に夏はやってくる。
昨日はベルナルドの計らいで全員にアイスが配られ、ジュリオが嬉しそうに頬張っていた。
けれどどうやったって暑いものは暑い。

この執務室に幹部全員が揃うのはいつぶりだろうか?
未だ仕事の覚えが悪いジャンにベルナルドは見張りをしながら資料を見比べていて、ジュリオは相変わらずジャンに説明をしている。
本人が理解してるかは分からないが……

チャイニーズの知り合いから扇子を貰えたのは吉だったな、などと思いながら、少しぬるい風を靡かせていた俺にルキーノはにんまり顔で肩を組んできた。
そして周りにいた幹部に目を配らせたかと思うと声高らかに言った。

「おいテメーら!今からコレに着替えろ、怪談すっぞ」

サッとルキーノの背後から現れた彼の部下達が、各幹部の前へと歩み寄り紙袋を差し出している。
俺の前にやってきた男から袋を受け取り中身を覗けば浴衣らしきモノが入っていた。

「カイダン…って、何だよ」

紙袋を怪しげに睨みながらソファーにどっかりと座っているイヴァンが口を開く。
その向かいに腰掛けて執務をしていたジャンも同様に、中身を気にしながらルキーノへと振り返っていた。
その横に座っていたジュリオは口を開こうとしないベルナルドを一眼して、それからジャン専用のトーンで解説してくれる。

「怪談とは…日本で夏を涼むために行われるもので、確か一人一人が1つ、話を持ち寄るんです…よね?」

すみません、聞いただけですので…と申し訳なさそうに振り返り、俺へと視線を向けたジュリオの頭を撫でてやりながら一つ息を吐く。

「……怪談って言うのはね、イヴァン…皆で怖い話をするんだ…本来は百物語、ロウソクを話終わったら一本消してを繰り返して、最後のロウソクを消したら何かが起こる…なんて云われてたり?」

「涼しくなるってんなら、やってみる価値はあるだろう?」

楽しそうなルキーノの様子にフッと前に日本の事を訊かれて話したな、と思い出した俺は、面倒臭そうな顔をしているベルナルドを目にして申し訳なく苦笑した。




それからがちょっと大変だった……
さっさと脱いで浴衣に袖を通し、なんて楽な着物だろう…涼しいし…なんて思って扇子をパタパタしていた俺の裾が引かれ、何だと振り返れば甘えたな顔をしたジャンがこれまた可愛く着せて?なんて言ってくるからチョチョイと着せてやれば、皆が一斉に浴衣を差し出してきたのだ。
まぁ可愛かったのはベルナルドとジュリオだ。
器用なのにこういうのになると難しいのか、はだけた浴衣にタジタジなベルナルド、あわあわしだすジュリオは何だか可愛らしいものがあった。

……何でジャンだけ女物なのかは敢えて訊かないでおこう。



執務室じゃ雰囲気が出ないと、場所を移動する事になった俺達は会議室用に設けられた部屋へとやってきた。
ここも部下にやらせたのか、テーブルも椅子も片付けられていて、あるのは座布団のようなクッションと蝋燭。
何だかんだ皆結構乗り気らしく、ジャンとベルナルドが蝋燭へと火を灯していて、他は回されてくる蝋燭を待ちながら各々定位置へと腰を下ろしていた。
ならば楽しませてやりたい、そう思うのがおもてなしの国、日本人たるもの。
ちょっとばかりの演出の下準備をしておいて、俺も腰を下ろした。

「さぁ、始めるぞ…」

ルキーノの言葉を合図に、俺たちは夏の涼を楽しむ事となった………





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