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「犬飼先輩いますか!」

「あ? 白鳥妹?」


月子先輩と別れてすぐ、私は走って2年の神話科に向かった。
走った勢いでドアを開けたからか、教室の中の先輩たちが驚いている。
その中で、見知った緑頭が真っ先に反応して声を出した。


「っ、先輩!」

「あーあー、聞こえてっから大声出さんくていいぞー。」

「す、すみません、」


のっそりイスから立ち上がり、いつもみたいな調子で喋る犬飼先輩。
ちょっとだけ、気まずくなるかなーなんて思ってたから拍子抜け。


「で? どした、こんなとこまで来て。」

「そ、そのですね、」

「ん?」


ぽんっと私の頭に手を置く犬飼先輩。
緊張していた気持ちがほぐれてきた気がする。
私はグッとスカートを握って先輩を見上げた。
大丈夫、先輩は私に言ってくれたんだ、私だってちゃんと言える。


「わた、私、先輩が…っす、好き!です…!」

「…………は…?」


私の半ば叫ぶような告白に教室も廊下も静まり返って、犬飼先輩の小さい声もよく響いた。
な、なんだこの羞恥プレイ…!
場所ミスったのかな?!


「お前……、え?」

「い、犬飼先輩?」

「いや、今の、新手のいじめか?」

「ひ、人が勇気を出して言ったのに…!」

「は? じゃあまじ?」

「……まじです、大まじです。」


恥ずかしさが込み上げて視線をそらしながらそう言う。
すると上から大きなため息。
それにビクリと肩震わせれば、なにかにぶつかった。


「………え?」

「見んな、バカ。」


反射で見上げようとすれば、頭を掴まれて何か、犬飼先輩の胸に押し付けられた。
そこでやっと犬飼先輩に抱きしめられてることに気付いて。


「お前さ、普通は場所とか考えねぇ?」

「い、いや……早く言わなきゃって、」

「急がねぇって言っただろ。」

「で、でも!……早く言いたかったんです。」


ぎゅっと先輩の服を握りしめる。
そのときだった。


「不純異性交遊はんたーいっ!」

「ぅわっ?!」

「に、兄さん?!」

「俺の妹に手を出すんじゃねぇ!」

「お前も俺の妹に手ぇ出したじゃねぇか!」

「聞こえなーい!」


突然現れた兄さんが、私をベリッと剥がす。
それから犬飼先輩と口論しだして、私は完璧に蚊帳の外状態。


「みやこ。」

「あ、あやめ…!」

「ふふ、よかったね?」

「ーっ、……ありがと、あやめー!」

「わっ、もう!」


兄さんの後ろに着いてきてたのか、少し遅れてきたあやめが私に声をかける。
私は、あやめに何も話せなかったのに、こうして祝ってくれるのが嬉しくて、思わず抱きついた。
それから後でちゃんとあやめにも話そうと思う。





(「あ、もうすぐチャイムなるよ?」)
(「帰ろっか!」)
(「でも、弥彦先輩とお兄ちゃんが……、」)
(「大丈夫、大丈夫そのうち気付くって!」)
(「そ、そうかな…?」)




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