「……んあ!」
「あ、起きた。」
落ちるような感覚と共にバッと目が覚めた。 寝覚めは悪かったけど、だいぶ顔色のよくなった先輩に安心する。
「顔色、もうだいぶいいみたいですねー。」
「おかげさまでな。」
「へへっ、」
「……お前、そこは“私は何もしてませんよ!”っていうとこだろ。」
「えー、そうですか?」
「逆にお前は何をしたんだ。」
犬飼先輩に言われて、よくよく考えてみれば押しかけて、泣いて、寝ただけ。 うん、確かに何もしてない。
「えへ、何もしてなかったですね。」
「ったく、ここはサボり場所じゃねぇからな。」
そう言いながらも、その目は優しい色を帯びていて。 こつんとおでこを小突いた手もどこか優しい気がした。
「へへ、えへへ、」
「いきなり笑うと白鳥みたいだぞ。」
「えっ、それはイヤですね。」
「……俺が言うのもアレだが、そのうちアイツ泣くぞ?」
「あやめが慰めてくれますって。」
「そりゃそうだが……それはそれでおもしろくない。」
難しそうな顔をする先輩に、チクリと胸が痛い。 その意味がわからないほどお子さまじゃない。 けど、先輩の妹にまでそういう気持ちを抱くほどなんて思わなかった。
(「白鳥妹?」) (「せん、ぱい…、」)
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