「ていうか、メール見てないんですか?」
「さっきまで寝てたんだから見てねぇよ。 ……うわ、ほんとに送ってるし。」
「さっきからそう言ってるじゃないですか!」
まだ本調子じゃないのか頭を押さえていて、慌てて自分の口を押さえる。 それに気付いた先輩が笑いながら「大丈夫だ」って言うから手を離したけど、その笑顔は少し弱々しかった。
「あ、熱測りましょ! それから、お粥ですか? 私、作ったことないですけどがんばりますよ!」
「とりあえず落ち着け。 あとなんか不安だから作らんでいい。 それと風邪うつる前にさっさと学校行け。」
少し咳込みながら言う犬飼先輩。 しんどいのと、私を心配して言ってくれてるってわかるのに。 お前はいらない、って言われてる気がした。
「ヤ、です。」
「は?」
「私、犬飼先輩の看病しにきたんです。 ただでは帰らないですからね!」
ふん!と、精一杯の強がりを見せる。 ほんとは泣きたかった。 今でも気を抜けば涙腺は緩んでしまう。 でも、そんなの“私”じゃないから。
「……はぁ、ほんとバカだよ、お前は。」
「せ、んぱい…?」
「風邪、うつってもしらねーからな。」
手を伸ばして、ゆっくり頭を撫でてくれる先輩。 初めはただ先輩が頭撫でるの好きなのかと思ってたけど。
「……安心、します。」
「だろ?」
俯いて、ぎゅっと先輩の掛け布団を握りしめる。 犬飼先輩は、知ってたんだ。 私がこうされるのが安心できて好きなこと。 だから、いつも撫でてくれてたんだ。
きっと誰より、私のことを見てくれてた。 ほんとの私を見つけて、手を差し延べてくれていたんだ。 それは先輩にとって、特別な意味があったわけじゃないかもしれない。
それでも、私には特別で大切なものになっていたんだ。
(「お前もあやめも、泣き虫だよなぁ。」) (「っ泣いてません!」) (「はいはい、そうだったな。」)
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