ケンカの原因なんて、ほんの些細なことだったと思う。 それでもお互い意地を張り、連絡を取らないどころか顔を合わせなくなってしまった。
「会長、意地なんか張らずにはやく謝った方がいいんじゃないですか?」
「そうですよ、名前ちゃんも寂しそうでしたよ? 会長が大人になってもいいと思いますけど。」
仕事をこなしながら颯斗と月子の説教じみた話を聞く。 名前とのことを忘れたくてきたのに、これじゃ本末転倒もいいとこだ。
「もうお前ら黙って仕事を、」
「……会長?」
「どうしたんですか?」
聞きたくなくて紡いだ言葉が不自然に途切れる。 それに首を傾げる2人だが、構ってられない。 さっき視えたのは、事故に遭う名前。 日の暮れ方的にみても、時間がないだろう。
「っ、急用!」
「ちょっ、会長?!」
「どこ行くんですか!」
短く告げて生徒会室を出る。 あいつらの声が聞こえたが、構ってれば間に合わない。 というか、今でも間に合うかわからない。
「っ、頼むから、」
無事でいてくれ。 それだけを考えて、階段を駆け降りた。
「……は、軽傷?」
「あぁ、たぶんもうすぐ帰ってくるぞ。」
廊下をすごい形相で走っていたからだろう。 星月先生に捕まって、そのまま保健室に連れて行かれた。 早く名前の元に行きたい俺を察してか、お茶を飲みながらそう告げる。
「え、ていうか、え?」
「お前の星詠みにしてはギリギリだったな……それか、虫の知らせみたいなヤツだろ。」
「と、いうと?」
「恐らく、ほんの数秒前辺りにお前が星詠みで視たんだろう。」
先生曰く、名前は近くの子どもをかばったらしく事故に遭ったらしい。 けど、たまたま徐行中だったのと、運転手の反射神経がよかったのが合わさり、その上近くに病院があったらしくすぐに処置を受けれたおかげで軽傷で、しかもすぐに戻ってこれるようで。 相変わらずの強運に、俺は絶句した。
「こんにちはー、」
「お、噂をすれば、ってヤツだな。」
安堵やらいろいろなため息をついていたら、ガラリと開いたドア。 そこに立っていたのは、足に多少の包帯を巻いた名前。 ぴんぴんしてるから、確かに軽傷らしいが、包帯に心が痛んだ。
「あ、」
「じゃ、俺はちょっと用があるから職員室に行くな。」
「い、行かないでください…!」
「お前の事後処理に行くんだよ。」
「あ、ぅ……いってらっしゃい、です…。」
俺の姿を視界に入れた途端、狼狽える名前を見た星月先生が出ていこうとすると、白衣の裾を掴む名前。 俺と2人なのが気まずいからの行動なんだろうけど、おもしろくない。
そんな俺を知ってか知らずか(名前は知らないだろうが、星月先生は知ってそうだな)、仲睦まじく言葉を交わす2人。 最後に名前が観念したのか、そっと手を離し、星月先生は保健室を出て行った。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
名前が前に座り、それからお互い口を閉ざし、しばらく沈黙。 先生が帰ってくるまでこうかと思うほど、俺も、きっと名前の方も話題がない。 そんな中、さすがに耐え切れなくなったのか、名前の声が保健室に響く。
「あの、」
「………なんだ。」
「あ、その……えっと、ですね……。」
ぶっきら棒な物言いに、名前が怯む。 ああ、違うんだ。 そう思って口を開けようとしたとき。
「今日、ば、バレンタインって知ってた?!」
「……あ、あぁ。」
ぎゅうっとスカートを握りしめ、俯いたまま叫ぶように声を張り上げる名前。 普段こうして声を荒げることなんてないから、正直驚いた。 それを感じたのは名前もなのか、小さく「ごめんなさい」と呟いている。
「その、ですね、」
「あ、あぁ……どうしたんだ?」
少し恥ずかしそうにする名前に、期待する自分がいた。 今年は、もらえないと思っていたけど、もしかしたら。
「これ、もらってくれま……って、あぁ!」
背筋を伸ばして、名前を見れば、がさごそとかばんを探り、叫んだ。 ど、どうしたんだ…?
「な、なんでもないですごめんなさい気にしないでください。」
「いやいや、そんな泣きそうな顔で何言ってんだよ。」
「や、もうほんと、なんでもな、」
「見せてみろ。」
「ちょっ…!」
じれったくなって名前のかばんをひったくるようにして奪い、そっと中を覗けば。 事故の衝撃か、ぐしゃぐしゃになった箱。
「これ、俺のか?」
その箱を取り出して名前に問えば、泣きそうな顔で頷かれた。 俺はかばんを隣に置いてそっと開ける。 中は確かにぐしゃぐしゃだったが、まぁ食べれば一緒だろうと判断して一欠片を口に運んだ。
「む、ムリしなくていいんですよ?!」
「ムリなんかしてない、すっげぇ美味いよ。」
「っ、」
俺の言葉に顔を歪ませた名前。 腕を引っ張って抱きしめれば、久しぶりのぬくもりに俺も泣きたくなる。
「お前、どうせ星詠みで視えたからって庇ったんだろ? 無茶ばっかすんなよ。」
「だってっ、あの子にはまだまだたくさん未来があるもの…!」
「お前にもあるだろ。 ったく、もう少しは自分の体を労ってやれ。」
「一樹くんにだけは、言われたくないっ」
そう言って、泣きながら器用に笑う名前。 なんだか少し腹立ったから強めに頭を撫でてやった。
仲直りの仕方 (「仲直り、な。」) (「……うん。」) (「もう二度とケンカなんてごめんだ。」) (「私も寂しかった。」)
*結華さまに捧げます。
話がまとまらず、長々と書いた挙げ句に設定を活かしきれないという……ほんとすみません! もし気に食わないようなら返品、書き直し受け付けてますので!
結華さまのみお持ち帰りください。
バレンタイン企画へのご参加、ありがとうございます!
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