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「はい、どうぞ!」


にっこり笑ってチョコ(市販)を配る月子ちゃん。
私が片思いしてる梓くんにも配って、梓くんも嬉しそうにしてる。


「せっかく、用意したのにな……。」


ぎゅっとチョコの入った包みを握りしめて、そっとカバンにしまった。
あーあ、柄にもないことするからだよね。




そんなバレンタインから一夜明けた今日。
何故か部屋のドアを開けると梓くんがいました。


「……なんで?」

「ロードワークの帰りに寄ったんです。」

「あぁ、」


そういえば、宇宙科ってそんなことをしなきゃいけないんだっけ?
大変だよね、こんな寒いのに。


「先輩、上がっていいですか?」

「そう聞くなら、靴脱ぐのやめなさい。」

「上がりますね。」

「まったく…。」


ずかずかと入ってくる梓くんは、遠慮というものを知らないのか。
まぁ言っても仕方ないから言わないけどね。

とりあえずお茶を淹れようとキッチンに向かう。
あ、お茶請け発見。


「お待たせ。」

「……ありがとうございます。」


「いえいえ。」


ぶすっとしてる梓くんだけど、理由もわからないしスルーだ、スルー。
向こうが何も言わないなら、私も何も聞かない。
それが私のモットーだしね。


「……昨日、」

「ん?」


何も聞かずに、お茶を飲む私に痺れを切らしたのか。
ジッとお茶の水面を眺めながら口を開く梓くん。
私は飲んでたお茶を置いて、梓くんに視線を向けた。


「なんでくれなかったんですか。」

「は?」

「僕、ずっと待ってたんですよ?」


主語がないから何を言ってるのかわからない。
そう言いたいけど、わかってしまった。
わかってしまうと、どうしようもなく顔が熱くなるのがわかる。


「だ、だって月子ちゃんのもらってた、」

「そりゃあ断る理由はないじゃないですか。」


梓くんの言葉に、なんだかモヤモヤして気持ち悪い。
さっきまで熱かったのに今度は底冷えするような冷たさが私を支配した気がする。


「名前先輩?」

「……帰って。」

「え?」

「チョコなんてないんだから、はやく帰って!」


気付けば出ていた大きな声に、目を見開いてる梓くんよりびっくりした。
心の中がぐしゃぐしゃで今よりもっとヒドいこと言っちゃいそうで。


「いやですよ。
ないなら作ってくださいよ。」

「なんで私が…!」

「僕が名前先輩のこと好きだからです。」


淡々と告げる梓くんに、私の思考がピタッととまった。
梓くんが、私のこと、好き?


「なら、なんで月子ちゃんのチョコ、」

「あそこのチョコ、前に宮地先輩が言ってたんで気になってたんですよ。
それに、そうすれば名前先輩が嫉妬してくれるかなーって。」


まさかこんなに妬いてくれると思いませんでしたけど、なんて笑う梓くんに力が抜ける。
ほんっとに生意気だよ、梓くんは。


「で、先輩?
僕のチョコは?」

「ほんと図太いよね。
昨日のだけど大丈夫?」

「やっぱりあったんですね、嬉しいです。」


昨日、チョコを食べずに冷蔵庫入れててよかったな、なんて。
梓くんの笑顔みてそう思ったのは秘密。



1日遅れ
(「手作りですか、さすがですね。」)
(「何がさすがなのかわかんないけど、味に自信ないよ。」)
(「ん、ものすごくおいしいですよ?」)
(「……そう。」)




*祐奈さまに捧げます。


錫也くんか梓くんとのことでしたが、梓くんにしました。
梓くんが少し最低な人に見えたりするような気がするんですが……大丈夫ですかね?
もし気に食わないようなら返品、書き直し受け付けてますので!


祐奈さまのみお持ち帰りください。

バレンタイン企画へのご参加、ありがとうございます!




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