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「っか、一樹くん、あの、きっ、キスして!!」


あたふたと顔を真っ赤にしてまたコイツ可愛いことやってんなあなんて考えていた俺に、名前は意を決したようにそう言った。思わず思考が止まってしまう俺を、ただただ見つめる名前。
うん、まあ、とりあえず状況整理でもするか。


「あーっと…名前?まず何があったか説明してくれ」

「っえ?ええ?」

「ハイ息を深く吐いて深呼吸ー」


爆発でもしてしまうんじゃないかと心配になるほど顔を赤らめていた名前が、俺に促されるまま深呼吸を繰り返して少しずつ落ち着きを取り戻していく。林檎のような頬も桃色にまで薄まってきた。
幸い誰もいない生徒会室のソファに彼女を座らせて、俺も隣に座る。それでもやはりどこか落ち着きのない名前に「急にどうしたんだ?」と問いかければ、彼女はぎゅっとスカートを握った。


「あの、ね?白銀くんが、一樹くんと付き合ってどうかって聞いてきて、」

「……それで?」

「それで、答えたんだけど、もう三ヶ月になるのに、キ、キスしたことないのっておかしいって言われて、一樹くんも、我慢してるんじゃないかって、」


ニタニタと笑う親友が脳裏に過ぎって、思わず溜息を吐いた。確かに、名前と付き合い始めて三ヶ月になっても手は一切出していない。手を繋いで抱き締めるまでにとどめているのには勿論理由があるのだが、まさか桜士郎に心配されるとは思わなかった。
名前はおろおろした様子で、「……やっぱり」と呟く。何がやっぱりなんだろうと彼女の瞳を見据えれば、たちまち涙が溜まっていくのが見えて狼狽した。


「か、一樹くん我慢してるんだ!私が初めてだから、私にあわせようとして我慢してるんだ……!」

「おっ、おい!バカ、泣くなよ!」

「一樹くん、欲求不満でかわいそう、って、白銀くん言ってたもん…っ!」

「なっ!?違う!断じてそれは違う!!桜士郎の言う事を真に受けるんじゃないっ!」

「じゃあっ、私に魅力がないからしないの?私が、月子ちゃんみたいに可愛くないからっ…」


ぼろぼろと涙を流す名前にもうどうすればいいのかわからなくて、震える体を強く抱き締めた。びくりと体を強張らせた彼女が俺の名前を呼ぼうとしたのがわかったけれど、それを封じるように口付ける。思っていたよりも柔らかくて、熱い。
彼女がぎゅうっと皺になるほど俺の制服を掴んだのに気がついて、ゆっくり離れれば涙で潤んだ瞳と視線がかち合った。


「……か、一樹くん、顔まっか」

「っうるさい、」


ぱちぱちと目を瞬く名前に再び口づけて、桜士郎めと心中で悪態をつく。彼女にはかっこいい姿しか見せたくなかったのに、キスだけで顔を赤らめてしまうなんて全く情けない。
だけど名前が好きすぎるんだから、仕方ないよなあ。




君はずるい


*翔さまより、相互記念にいただきました!

ありがとうございます!


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