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結局、梓くんの試合も見れなかったし、目も腫れぼったいし。
会長さんの取り計らいで翼くんに連絡つけてもらい、1人でとぼとぼと帰り道を歩く。
ちなみに、会長さんが送るって言ってくれたけど全力で断った。
迷惑、かけたくないし。
少し傷付いたような顔してたけど……気のせい、だよね、うん。


「っ、」


そんなこんなで寮についたら、仲よさげな梓くんと月子先輩がいて。
思わず隠れてしまった。
ちょっと遠くて声は聞こえない、けど。


「……裏口から入ろ。」


2人の姿を見てるのがツラくて。
私はこそこそと裏口へ移動して自分の部屋に戻った。

真っ暗の部屋が、いつもと違うみたいに見えて、少し怖くなる。


「梓くんは、きっと月子先輩が好きなんだ。」


さっきの光景を見て、再確認した気がする。
月子先輩、美人さんでかわいくて一生懸命で、そりゃあ梓くんだってほっとかないよね。
心ではわかってるのに、涙が溢れてきた。

きっと、2人にとって私はお邪魔虫なんだ。


「っ、く……ふ、」


声が抑え切れなくて漏れる。
泣いても何もならないのに、なんで泣くしかできないの。
無力な自分が嫌で、余計に涙が溢れた。




「……ん、」


いつの間にか眠ってたみたいで。
どれだけ泣いたんだろうか、頭がボーッとする。
周りを見渡せば、電気がついてない部屋を星明かりがぼんやりと映していて。


こんこん、


不意に聞こえたノックに体が跳ねる。
誰だかわからないけど、今は出たくない。
私は居留守を使うことにした。


こんこん、


相手は粘り強いらしく、なかなかノックは鳴りやまない。
私は布団を頭まで被る。
少し聞こえにくくなった音に混じって、誰かの声がした。


「ねぇ、瑞紀ちゃん、いないの?
いるのなら開けてくれない?」


言わずもがな、月子先輩の声。
落ち着いたソプラノが、私の心を乱す。
どうかバレないで。


「……いない、のかな。
それとも寝ちゃったのかな?」


耳に入ったその言葉に、罪悪感と少しの安堵感。
それから遠ざかる足音に胸を撫で下ろした。

なんだろ、なんだかものすごく疲れた。
ちょっとだけ寝よう。

私はダルい体を休ませるため、そっと目をつむった。





(「(全部、全部、夢だったらいいのに。)」)




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