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「ほら、ココア。」

「ありがとー。」


たまたま通り掛かった梓くんに助けてもらって、なんだか1人でいたくなかったから勢いで梓くんの部屋にお邪魔しちゃったんだけど……まぁ、いっか。
部活のこと、またあとで先輩たちに話に行かなきゃな。
どうせ梓くん、ロクな説明もせずにお叱り受けるだろうし。


「由宇さ、」

「なに?」

「怖いときとか、ツラいとき、ちゃんと助け呼ばなきゃダメだよ。」


床にぺったんこ座りの私とは違って、梓くんはベッドに腰掛けてるから上から見下ろされながらの言葉に、何も答えれずにココアを飲む。
そんな様子を見てため息をつく梓くんに、心配してくれてるんだって嬉しくなった。
言ってやらないけど。


「由宇の気持ちは読みにくい。
それは自分でも知ってるでしょ?」

「えー、私すっごく単純だよ?」

「……話が進まないんだけど。」


はぁ、と重いため息をつく梓くん。
それでも私は笑う。
癖になったそれは何も考えなくても、笑える。
無理なんかしなくても。


「もういいや。」

「梓くん?」

「ほんとは由宇が素直になるのが1番だけど、期待できそうにないし。」

「ふふふ、よくおわかりで。」

「だから、僕が由宇のほんとの気持ちをわかってあげるよ。」

「え?」


いきなりの言葉に固まってしまう。
でも表情は崩さない、崩れない。
それでも梓くんにはバレてしまうみたいだけど。


「どんな嘘もごまかしも僕が全部見抜いてあげるし、ほんとの由宇を探し出してあげる。」

「あ、梓くん…?」


不敵に笑う梓くんに、不安な自分と期待している自分がいた。
そんな私にも気づいたのか、くしゃくしゃ頭を撫でる梓くんになんだか無性に泣きたくなった。





(嘘と笑顔で隠れた少女とその心を射止めた少年のお話。)



-fin-

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