私の上司はとっても人使いが荒い。 でも、それ以上にとっても部下思い。
だから、みんな慕うんだと思う。 もちろん私も例外なく。
「おい、それとってくれ。」
「はい、どうぞ。」
「おー、さんきゅ。」
さっきから睨めっこしていた書類から目を離し、笑顔を浮かべてそう言う一樹部長。 またすぐに書類に視線を戻したけど、そういう何気ないものに私はきゅんとするわけで。
「あ? どうした、名前?」
「ふふ、なんでもないですよ。」
「なんだそれ。」
私の顔の緩みに気づいて、不思議そうな顔をする一樹部長。 今さらだけど、ウチの部署はアットホームな雰囲気が売りで、一樹部長の意向でみんな下の名前で呼び合ってる。 だからか、ウチはすごく仲がよくて、和気藹々と仕事をこなしていると会社でも有名だ。
「あ、そういえば部長、金久保部長から例の仕事はやくやれって催促されてますよ?」
「う……わかってる、もうすぐできるって伝えといてくれるか?」
「わかりました。 ……もし大変そうなら私も手伝いますので、声かけてくださいね。」
「あぁ、助かる。」
そんなこと言って、私たちに助けなんて求めないくせに。
そう思ったけど、飲み込んで笑顔を浮かべた。
別に信頼されてないわけじゃない、私も、みんなも。 だけど、部長は一人でムリをする。 それが寂しくて、悲しい。
でもそれを嘆いてばっかいても仕方ないから。 少しでも仕事ができるようになって、一樹部長を支えれるように。 心の中で気合いを入れ直して、私は自分の仕事にとりかかった。
見えない想い (「あ、一樹。」) (「おぅ、誉か。」) (「どう? 仕事、進んでる?」) (「あぁ、もちろんだ! 名前の前で情けねぇカッコはできねぇからな。」) (「ふふっ、そうだね。」)
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