「ぬぬぬっ……」
時には外の空気を吸う事も大切だ。なんて言ったって肺呼吸する生物なんだから、体にだって新鮮な酸素をくれてやらないといけない。 それに視覚的にも部屋や屋内に篭りっぱなしは良くないだろう。たまには深い緑や鮮やかな青を目に入れないと、目玉がシワシワにしぼんでしまいそうだ。 特に私達の仕事なんて尚更だろう。ずっと画面や書面と睨めっこをしなくてはならないし、上からの重圧や下からの威圧で体はもうてんてこ舞いだ。
………って言ってるのに、全く、この人は………
「天羽部長、近すぎです」
「ぬわぁっ!?」
ぐいっと目の前のでかい図体を後ろから引っ張れば、やっとこ天羽部長とパソコンとの画面の間に隙間が出来た。 何やら難しい英単語や数字をバッとメモ帳画面に打ち込んでいる天羽部長は、私が何度注意してもまるで鼻を画面にくっつけるかの様にパソコンを凝視している。 こんなんで私より視力が良いのだから、たまったもんじゃない。 私はケータイのいじりすぎで高校の時にAから一気にDまで落ちたって話だ。
「今良い所だったんだぞー!別に俺がいくらパソコンと睨めっこしてたって関係ないじゃんか!」
「そんなこたぁ知りません。見ているこっちの目が悪くなりそうなんです。部長なんだから社員への気配りも出来て当然です。」
つんと顔を背ければ、天羽部長はぐぬぬと奇妙なうめき声を上げる。
「……じゃあ気をつける……」
「はい。そうして下さい。」
私はニッと顔を緩め、しょんぼりスイッチの入った部長に笑顔を向けた。天羽部長はこれくらいの方が大人しくて楽だ。休憩中で発明をしている時なんかもう地獄だ。用があるっていうのに取り合ってもくれない。
ふと天羽部長の顔を覗き込めば、まるで鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。そういえば私、いつも怒ってばっかりで天羽部長の前で笑った事なんてなかった気がする。
「なんで苗字は怒ってばっかで笑わないんだ?」
「……はい?」
「苗字は笑ってた方が可愛いぞ!因みに俺は笑顔の方が好きだ」
さらっと恥ずかしい事を言ってくれるもんだから、今度が私が思わず間抜け面をしてしまった。 ほんと、何言っちゃってるんだ、この人。
「別に、私だって1時間に1回くらいは笑います」
自分の口が機嫌の悪さで尖んがるのを感じながら、私は天羽部長がどんな反応をするのか下からの伺ってみた。
「………ぬぬぬぬーんっ!!!じゃあ今日からは、俺の発明で苗字が30分に1回笑える様にする!」
「……は」
「覚悟しておくのだ!ぬはははっ」
「あ、あの………。行っちゃった……」
まるで嵐の様な一連の流れに目を点にしていれば、ぬははと笑いながら天羽部長は事務所を出ていってしまった。 天羽部長がいなくなって静かになった事務所を見渡して、はぁっとため息をつく。
「全く。」
君がそう笑うから (私だって笑っちゃうんですよ、もう)
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