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入社初日、上司の顔の怖さに早くも転勤したくなったのが今では少し懐かしい。
まぁ、今も怖いっちゃあ怖いけど、仕事は真面目だし、私たち部下のこともきちんと考えてくれるいい上司だと思ってる。
だからって、そんな上司を“かわいい”だなんて思ったことはないし、これからもそうだと思ってた。
つまり何が言いたいのかと言うと。


「……ケーキ、ですか。」

「む、苗字か。
他にあいてないならそこの席、座っていいぞ。」

「ありがとうございます……あの、栄養偏りません?」


最初の呟きは聞こえなかったのか、特に何も触れずに宮地部長の前の席を勧めてくれた。
確かに混み合っていてありがたかったので失礼ながらお邪魔して、思ってたことを伝えてみる。
すると宮地部長はぱちぱちと瞬きしてから、少し頬を染めて口を開いた。


「いやっ、これはたまたま、そう!星占いで甘い物がいいって言っててだな、ここのスイーツはたくさんの種類があって栄養もばっちりだったから、ってだけで、別に俺が食べたくてとかじゃなくてだな…!」

「……はぁ、」


普段とは違ってなんだか少し早口で捲くしたてる宮地部長。
必死な感じに曖昧な返事しかできなかったけど、じわじわと込み上げてくる部長のかわいさに思わず笑ってしまう。


「わ、笑うなっ!」

「ふ、ふふっ、す、すみません…!」

「ーっ、もういい!」


笑いが止まる気配がないのに気づいたのか、そう言ってケーキを食べるのに専念した宮地部長。
それもまたかわいくて、確か知り合いがうまい堂で働いてて割引きしてくれるから誘ってみようかな、なんて。



甘い香りの導き
(「部長、ほっぺにクリームついてますよ?」)
(「む、どこだ?」)
(「今、取りますので動かないでください。」)
(「なっ…!」)
(「はい、取れました……って部長?」)
(「………なんでも、ない。」)



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