案外私は、単純だったのかもしれない。
「うわー、綺麗!」
「こら、そんなにはしゃぐなって!」
「は、はしゃいでないです。」
退院とまではいかなくても、それなりに(ここ大切ね)はしゃげるくらいには回復した私は、約束の日の夜、一樹さんに連れられて星を見に来た。 別に嫌いとまでは言わないけど、取り分け星が好きってわけでもなかったのに。 なんでか今日はすごく綺麗に見えるよ。
「ん? どうした?」
「なんでもないです!」
ジッと見ていたからか、視線に気づいた一樹さんと目が合う。 優しげな目に見つめられたら、胸が痛い。 それを隠すように視線をそらしながら語気を強めて言う。 するとふわりと頭を撫でられた。
「一樹、さん?」
「柚希……誕生日、おめでとう。」
「え?」
何を言われたのかわからなかった。 誕生日? 誕生日って誰の? 私?
「おまっ……やっぱり忘れてたのか。」
「だって、病院にいてると時間とかそんな気にしてなくていいですし、」
「まぁ、わからんでもないけどな。」
苦笑いしながらそういう一樹さん。 そうか、今日は私の誕生日だったのか。 ……ちょっとだけ、甘えてもいいのかな。
「お?」
「………。」
「お前、ほんとかわいいよな。」
「…うるさい、です。」
こてん、と一樹さんにもたれればさりげなく肩に腕を回された。 顔を見られたくなくてそっぽを向いたけど、きっと私がどんな顔してるかなんて、一樹さんはわかってるんだろう。
それからフッと一樹が笑った気配がした。 それから私の方に軽く体重を預ける。 程よい重みが心地いい。
「また来年も、そのまた来年も、ずーっとこうして星見ような。」
「え?」
「それで、俺らがじぃさんばぁさんになっても星を見上げて“昔からこうして星見てたなー”って話そうぜ。」
「か、ずき……。」
私もそんな未来がほしいよ。 でも、私はもうすぐ死んじゃうんだよ。 それにね、私聞いちゃったんだ。 お医者さんと琥太郎ちゃんが話してるの。
「私の病気の進行、著しいんだって。」
「あぁ、らしいな。」
「……じゃあなんで、」
なんで知っててそんなこと言うの。 どうして叶いもしない絵空事を。
生きたい。 初めて思ったこの感情を消す方法なんて、私にはわからないよ。
(「泣くなよ、」) (「っ、触らないで!」)
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