屋上庭園で、ただぼーっと空を見上げる。 まだ日の落ちていない空は星が見えないけど、なんとなくずっと空を見ていた。
最近、会長に合わせる顔がなくて避ける日々が続く。 生徒会室も行けてないし月子ちゃんや颯斗くん、心配してるかなぁ…。
「柚希…?」
「か、会長?!」
あまりにもボケッとしていたからか、後ろに会長がいたのに気付かなかった。 久しぶりの会長なのに、顔を見上げれなくてまた会長に背を向ける。
「仕事、大丈夫なんですか?」
「あぁ……。」
「そう、ですか。」
沈黙。 何か話題がないか探すけど、何も浮かばない。 すると会長は静かに私の隣に腰を下ろす。
「なぁ、柚希。」
「なんです、か…?」
「悪かった。」
小さく、でもはっきりと告げた言葉に、私は反射的に会長の顔を見た。 会長はすごく悲しそうでツラそうで。 何も、言えなかった。
「謝っても、取り返しがつかねぇのはわかってるけど、お前がツラい思いするなら、忘れろ。」
「かい、ちょう…?」
「お前は俺と何もなかった、今までのこと全部、忘れればいい。」
やっと出た声は、情けないくらい震えていて。 うまく言葉を紡げないのが、どうしようもなくもどかしくて。 涙が、こぼれた。
「柚希?!」
「……っんで、そんなこと…!」
ぱちん、乾いた音が屋上庭園に響く。 私が、会長を引っ叩いた音。 じんじんと痛みだす手と心。 でもそんなことどうでもよくて、それくらい頭に血が昇っていた。
「柚希、」
「なんで、そんなこと言うんですか…!」
立ち上がって会長を上から見ると、会長が小さく見えた。 それが無性にイライラして、余計に涙が溢れる。
「泣くなよ、」
「っ、触らないで…!」
「そんなこと、言わないでくれ。」
伸びてきた手を振り払おうとすれば、逆に手を掴まれて気付けば会長の腕の中で。 悔しいけど、少し心が落ち着いてきた。
「……俺は、柚希がツラい思いするくらいなら、忘れればいいと思った。 それで柚希が幸せになれるなら、俺は自分の気持ちなんてどうでもいいからな。」
ぎゅっと腕の力を強くする会長。 自分の気持ちがどうでもいいなんて、会長は今までこんな生き方しか知らなかったんだろうか。 そう思ったらなんだか会長が小さな子どもみたいに見えて、私もぎゅっと会長に抱きついた。
「会長は、変なとこに気を使いすぎです。」
「……悪い。」
普段、あれだけ自信に溢れた声だから、頼りない声に違和感。 でもそれが私にだけ見せてくれてるのなら、嬉しいな、なんて。
引き返せないくらい会長に惹かれてるのは火を見るより明らかで、でもそれは叶わないんだってこともわかってた。 私に誰かを縛る権利なんて、産まれた頃からないんだから。
でも、もう少しだけこのぬくもりに触れていてもいいですか?
(「明日からは生徒会室にこいよ。」) (「…わかりました。」) (「……なんなんだ、今の間は。」)
- 1 - *PREV|NEXT#
|