わかってたはずだった。 わかってた、はずだったのに。
「あ、巴ちゃん!」
「つっ、月子ちゃん…!」
あからさまに動揺してしまう自分に、余計動揺してしまう。 前はどんなことがあっても隠せたのに、今はちっとも隠せない。 どうやって隠してたっけ? それすらも思い出せなくて。
「あれ、どうかしたの? もしかして具合悪くなったの?」
「い、いえ、大丈夫です、ごめんなさい、ほんと大丈夫ですから…。」
手をぶんぶんと振る。 ダメだ、今のまま月子ちゃんといると、泣きそうだ。 だからといって落ち着かない状態の頭でいい言い訳なんて思いつかない。
「どうかなさいました?」
「あ、颯斗くん!」
「っ…!」
不意に聞こえた心地いい声に、今日だけは冷や汗が流れる。 やだ、ここにいたくない。 頭がそんな幼稚な考えで埋まる。
「……巴さん?」
「わっ! 大丈夫? すっごい顔色悪いよ?」
「あ……」
何か言わなきゃ、そう思っても声にならない。 気持ち悪い、吐きそう。 もう何がなんだかわからなくなりそうなほど、頭の中が黒く塗り潰されて。
「っ、巴さんっ!」
焦ったように近づく姿やさっきより近い距離で聞こえる切羽詰まった声。 初めて見たよ、そんなに必死になった颯斗くん。 そんな呑気な考えも全て飲み込むように、私の意識は沈んだ。
(「そこどいて下さい! 道を開けろ!」) (「私、星月先生探してくるね!」) (「お願いします!」)
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