[]




小さい頃から他人の気持ちを汲むのが得意だった私。
それに親の影響もあって、どこか中立の立場にいた私はいつしか“自分”を見失うようになった。

どれだけ貶されても、どれだけ屈辱を受けても、笑顔でその場を収めること。
それが親の望むことだったから。
できないなんて、親が許すはずもなかったから。

いい子、って言われたくて。
いらない子、って思われたくなくて。

ただ、必死だったの。


でもある日、限界がきて。
それでも演じなきゃダメだから、歯を食いしばった。
そこで見つけた逃げ道が、星月学園。
全寮制のこの学園で、親の目の届かないこの場所で、私は少し骨休み。

そんな中、私は彼に出会った。
完璧な笑顔に、時折見せる寂しげな表情。
どうやら私は嫌われてるみたいだけど、興味を持った。

でも彼を知れば知るほど、彼の傍にいることがツラくなって。
どこか鏡を見ているような気持ちが、ずっと胸で燻っていた。

一時期、彼から離れようとしたこともある。
でも彼は引き止めてくれた、必要としてくれた。
自惚れかもしれないけど、そう感じずにはいられなくて。

きっとそこが、まるで傷を舐め合うような、そんな微妙な私たちの始まり。





(「……巴さん? 聞いてますか?」)
(「えっ、あ、すみません!」)
(「珍しいですね、巴さんが仕事の話を聞き漏らすなんて。」)
(「も、申し訳ないです…。」)



- 1 -
*PREVNEXT#