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佳乃の死から数年後。
俺は、書記と付き合ってる。
もちろん、佳乃を忘れたわけじゃないし、佳乃を思うと今でも泣けちゃうくらい。

それでも、書記は俺を必要としてくれている。
だから俺は、佳乃のことは忘れないし、書記のことだって全身全霊で愛してみせる。

桜の咲く時期に、俺に大切なことを教えてくれた佳乃。
大切な人たちを亡くし、ふさぎ込んだ俺を救ってくれた書記。

俺の人生を彩ってくれた彼女たちに、俺は精一杯の愛情と感謝を。


「幸せになってね、翼くん。」

「ぬ、佳乃…?」


ふわりと舞った桜の花びら。
そして聞こえた、懐かしい佳乃の声。
佳乃らしい言葉に思わず笑みがこぼれた。


「うぬ!
俺、佳乃の分もちゃんと幸せになるぞ!」


振り向き、桜に向かってそう言ったら、佳乃が返事するみたいに柔らかな風が吹く。
俺はそれに満足して、くるりと桜に背を向けた。
書記がいきなり大きな声を出した俺を見て、不思議そうに首を傾げる。
俺はまた「なんでもないぞ」と笑って書記の手を引き、歩き出した。



桃色の季節
(俺の中に生き続ける、甘くて切ない春の記憶。)


-fin-



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