お別れは、気付けばすぐそこにきてた。
「佳乃?」
なんとなく胸騒ぎがしたから、あの桜の木のところに行く。 そしたら佳乃があのときと同じ、薄ピンクのワンピースに身を包んで立っていた。 儚げな横顔が、まるで桜の花とともに散っていく桜の妖精に見えて。
「っ、佳乃!」
「わっ、翼くん?!」
なんだかそのまま消えてしまいそうで、思わず佳乃を抱きしめた。 情けないことに震えながら。
「翼くん、どうしてここに…?」
「なんだか、胸騒ぎがして……そしたら佳乃がここにいて、なんか消えそう、で……。」
俺の言葉に、佳乃が少しだけ強張ったような気がした。 それが、俺の言葉を肯定しているように見えて、さっきより強い力で抱きしめる。 佳乃が消えないように、ぎゅっと強く。
「……あのね、翼くん。 実は私、引っ越すの。」
「……え…?」
ぽつり。 呟いた佳乃の言葉が信じられなくて、でもなんとなく納得できて。 ぎゅうっと胸が痛い。
「ほんとはバイバイ言いたくなくて、言わないで行こうと思ってたんだけど……見つかっちゃったから、ね。」
「ウ、ソだよな…?」
「ウソじゃないよ、今日が出発なの。 それでね、すごく遠いから、きっともう、翼くんとは会えない。」
寂しそうに呟いた佳乃。 見えた佳乃の顔は涙に濡れていて。 その姿もキレイだと思った。
小さな唇にそっと自分の唇を重ねて、拙いキスをする。 そこで気付いた俺の気持ち。 それが、少しでも佳乃に伝わるように。
(笑顔で泣いた彼女は、そのあと移動中に事故に遭い、帰らぬ人となった。) (最期まで、彼女は俺の名前を呼んでくれていたらしい。)
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