「あ、きた!」
月子の声で、みんなの視線がこっちに向かう弥生に向けられる。 今日は、初めて錫也の弁当を俺たち4人と弥生の5人で食べることになった。
「あ、ご、ごめんね、遅くなって…。」
「いいのいいの、気にしないで!」
「そうだよ、弥生! あ、弥生は僕の隣ね!」
「っておいこら羊! 弥生は俺の隣に決まってんだろ!」
「はいはい、弥生は俺と月子の間だから。」
「ちゃっかり隣に行くんじゃねぇよ、錫也!」
「あはは、」
来て早々に、弥生の座る位置で揉める。 だいたい、弥生のかっ、かか彼氏!は俺なんだから俺と友だちの月子が隣だろ、普通に考えて!
「なら弥生にどこがいいか聞けばいいじゃん! もちろん弥生は僕の隣がいいよね?」
「えっ?」
「な、何言ってやがる! 弥生は……俺の隣がいいよな…?」
「え、え?」
「もう、弥生ちゃん困ってるでしょ! だから弥生ちゃんは私の隣なの!」
「え、えー……じゃあ私はみんなの輪から離れたとこで、」
「それはダメだ!」
「それはダメ!」
「それはダメだよ!」
「えー……。」
困らせたいわけじゃねぇのに、困ったように眉を下げる弥生。 ったく、早く俺を選べばいいのによ…。
「さ、茶番はこれくらいにして、弥生は哉太と月子の間に座りなさい。」
「えーっ、僕も弥生の横がいい!」
「羊は弥生の向かいだ。 それならもう文句はないだろ?」
「……oui…。」
「うん、よろしい。」
鶴の一声、いや、オカンの一声により、ようやく座った弥生。 というか、5人だから向かいとかないんじゃ……と思ったけど言ったらまたケンカになるし黙っておこう。 それにしてもなんだ、緊張してきたな…。 ふわりと鼻腔をくすぐる甘い弥生の匂いが……って俺は変態か!
「あ、哉太が変なこと考えてるー!」
「なっ、ば、バカ! んなわけねぇだろっ!」
「ははっ、そんなヤツには、俺の弁当はやれないなぁ。」
「ご、誤解だっ!」
「さ、今のうちに食べちゃおっか!」
「えっ、いいの?」
「いいぞ、しっかり食べろよ。」
「あ、僕が弥生の分取ってあげる!」
「あ、ありがとう…。」
「って、羊! それ盛りすぎだバカ!」
「バカにバカって言われた!」
「んだと、こら!」
そんな会話をしながら、弥生と月子の笑い声を聞いて。 こんな毎日がこれからも続くんだと思うと、なんだか頬が緩んだ。
(「うわ、哉太がニヤけてる!」) (「うわって言うな!」) (「あ、哉太のからあげいただきー」) (「こ、こら、弥生!」) (「んまー!」) (「こら、弥生。 女の子がそんなこと言うんじゃありません。」) (「はーい……ところで錫也、私の嫁になりませんか?」) (「おっ、おい?!」) (「あはは、哉太フラれてるー!」) (「お、お嫁さんなら私がなるよっ!」) (「月子……。」) (「ちょっと待て! なんでそうなる?!」)
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