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「あぁ、ごめんな、こんな時間に。」

「……いや、別に。」


屋上庭園に向かえば、もうすでにそこには錫也がいた。
俺の方を振り向かず、背を向けて空を見上げている錫也の表情はここからじゃ見えない。


「……俺、さ。」


ぽつりと呟いた錫也。
その言葉を一字一句聞き逃さないように耳を澄ませる。


「ほんとは、怖かったんだ、弥生の存在が。
俺たちの関係を壊す悪魔に見えて。」

「なに、言って、」

「だってそうだろ?
実際、哉太は弥生に惹かれたわけだし、月子は弥生と仲よくしたがった。
挙げ句の果てに羊まで、弥生自身に好印象を抱いてる。」

「錫也……。」

「怖かったんだ、俺から何もかもを持っていきそうで…。」


初めて聞いた、錫也の本音。
誰よりも大人びた錫也の意外な一面。
いきなりすぎて、頭が追いつかねぇよ。


「お前、なんで今まで言わなかったんだよ…!」

「言えるわけないだろ!
……俺は、月子のためだったら弥生が悲しんでいてもどうでもよかった。
だから今まで弥生がどれだけ傷ついてたか知ってても、見て見ぬフリをしてきたのに……今さら、そんなこと言えるわけないだろ…?」


ぎゅっと、錫也が自分の手を強く握ったのが見えた。
俺は何も言えない。
なぁ錫也、お前は今、どんな顔してる?


「………こんな奴なんだよ、俺は。」


そう言って振り向いた錫也。
何の色も灯していない目からは、涙がこぼれて頬に筋が浮かんでいた。

お前は自分が最低だって言うけどな、ほんとに最低な奴はそんな顔しねぇよ。
それがお前の作った顔だっていうなら話は別だけど、違うんだろ?

錫也、お前だってまだやり直せるんじゃねぇか?


「……錫也が思うより、弥生は、強ぇよ。」

「哉太…?」

「確かにお前のやったことは許されねぇかもしれねぇが、償うことだってできるんじゃねぇか?
それに弥生は、俺たちの関係を崩そうなんてこと考えてねぇよ。」


少しずつ、みんなの気持ちがズレていっただけ。
昔からの知り合いだからって、言葉が足りなすぎたんだよ、俺らは。


「んな情けねぇ顔してんな、バーカ。」


そう言って軽く、錫也の胸にパンチを1発。
少しすっきりしたような錫也の顔に、一安心。
もう錫也は大丈夫だろ。

さて、錫也のおかげで決心できた。
もう1度、あいつに気持ちを伝えようと思う。





(「俺、ちょっと行くとこできたから行くわ。」)
(「あぁ……哉太、がんばれよ!」)
(「さんきゅ、」)




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