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あれから、なんとなく錫也と話せなくなった。
羊や月子が心配してるけど、俺にはどうすることもできねぇ。

屋上庭園で、ベンチに寝転び、1人ぼーっと空を見上げる。
こんなとき、いつも傍にいてくれたのは弥生で。
惜しみない愛情を俺にくれて、俺の不安や心配は持って帰っていく。
さりげない優しさで俺を満たしてくれる。
そんな愛しい存在をようやく手に入れたと思ったのに。

俺は、弥生を傷つけることしかできなくて。
弥生が俺の元から去っていくのに、何1つできなかった。
思えば俺は、弥生になにかしてやれただろうか。

考えれば考えるほど、じくじくと胸が痛みだす。
涙が、頬を伝う。


「………また、泣いてるの?」

「!」


不意に聞こえた声に、勢いよく起き上がりそちらに顔を向ける。
そこには少し息を切らした弥生が、泣きそうな顔をして立っていた。


「お、まえ……どうしてここに…?」

「……哉太、が…泣いてる気がしたから。」


ほんと、泣き虫なんだから。
そう言ってゆっくり俺に近づき、そっと指の腹で涙を拭う弥生。
懐かしい、感覚。


「っ、弥生…!」

「わっ……やめてよ、バ哉太。」


弥生の腕を引き、ぎゅっと抱きしめる。
弱々しくも抵抗する弥生に、無駄だってわからせるため、力を強めた。
もう、離したくはない。
例えこれが都合のいい夢だったとしても、弥生を感じていたいんだ。


「哉太、言っとくけど、縒りを戻しにきたんじゃないから。」

「……あぁ、」

「錫也となんか険悪みたいだから、私が来てあげただけだからね。」

「っ、あぁ、」


ツン、と俺を突き放すような言葉の弥生。
だけど、その節々から伝わる弥生の優しさに泣きそうになった。
あんなに酷ぇこといっぱいしたのに、ツラいときに傍にいてくれる。

なぁ、俺はもう少し、自惚れてもいいのか?
今すぐに、はムリでも、少しずつ戻れるのか?

その答えは、これから探していこうと思う。





(「お前、ほんっとお人好しだよな。」)
(「どこかの誰かさんが寂しがり屋のくせに1人で泣くからでしょ。」)
(「うるせー」)




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