「……こんなとこにいたのか。」
「! 錫也、か。」
ひとしきり泣いて、涙が涸れてきたころ。 屋上庭園のドアを開けたのは錫也で。 声的に、なんとなく俺を探し回ってたのがわかった。 それと少しだけ遠慮したような声に、これこそガチでなんとなくだけど、事情を知ってるような気がする。 だからか、俺より数メートルほど後ろに立ったまま動かないし。
「……あのさ、哉太、」
「弥生のことなら気を遣わなくていいぞ。」
「! あ、いや……、」
歯切れ悪い錫也の声に、先にそう言えば明らかな動揺が伺えて笑いそうになる。 楽しくなんかないのに、おかしいよな。 なんかもう、全部が可笑しくて仕方ないんだ。
「……哉太、」
「なんだ?」
「いいのか?」
意を決したような錫也の声に、おちゃらけた声で答えれば、少しだけ説教するときに近い声で俺に問う。 でも愚問だろ、それは。
いいのか、って? いいわけないだろ。 俺は弥生が好きだった。 いや、今でも好きだ。 俺には弥生しかいない。 弥生だけいればよかったんだ。 それは、弥生に伝わらなかったけど。
いや、俺が伝える努力をしなかっただけ。 わかってる、わかってるけど、弥生ならいつかわかってくれると思ってたんだ。 2人のときはなんだかんだ恋人っぽかったと思うから、今は啀み合っててもいつか仲よくなると思ってた。 バカみたいに信じてたんだ。 でも。
「もう、遅いんだよ……何もかも…っ!」
「哉太、」
「あいつはムリだって、もう戻れねぇよ…!」
涸れたはずの涙が溢れ出す。 こんなダサい姿、弥生には見せらんねぇなって思ってたら、錫也が「こんな情けない姿、弥生には見せられないな。」なんて笑うから、振り向いて軽く1発殴ってやった。
(「まぁ、今は俺しかいないから好きなだけ泣きなさい。」) (「言ってること、めちゃくちゃじゃねぇか…!」)
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