「くそっ、」
イライラする。 弥生を抱きしめた宮地にも、黙って抱きしめられてた弥生にも、弥生をあんなに追い詰めた自分にも。
「か、哉太、」
「……んだよ、」
月子に声をかけられて振り向けば、少し怖がる月子。 俺は深呼吸してから一言謝る、と意外な返事が。
「ごめんね、哉太、」
「あ?」
「私のせいで、弥生ちゃんと気まずい感じになっちゃったんじゃない、かな?」
「……あぁ、」
別にいつものことだ。 そう言いそうになったのを、すんでのところで飲み込む。 そこまできてようやく落ち着いてきた俺は、ふと羊を見た。 なにか言いたげな、そんな顔。
「どうしたんだよ。」
「……別に。」
「ははっ、羊は弥生に言い返せなかったのが悔しいんだろ?」
「べ、別にそんなんじゃないっ!」
錫也の言葉を力一杯否定する羊。 つまり図星なんだな。
でもまぁ、確かに俺らは弥生に何一つ反論できなかった。 いや、できるはずなんてなかったんだ。 あいつの言うことは、正しい。 羊だって、弥生が月子の悪口(とは違うけど)をずばずば言うから苛立っているだけで、俺ら周りが弥生のことも考えていたら弥生があんなに言うこともなかった。
落ち着いて考えれば、俺らはどれだけ無神経に弥生を傷付けてきたんだろう。 今さら後悔しても、もう取り返しのつかないことかもしれない。
だって、あいつが俺の前であんなに怒るのは2回目だ。 しかも前回と同じ、月子のことで。 もう、愛想尽かされても文句は言えないだろう。
そう考えると、無意識のうちにため息が漏れる。 どうかまだ弥生の気持ちが俺に向いてますようにと、まだ見えない星に願いをかけた。
(「……悪い、次の授業パス。」) (「…仕方ないな、今回だけだぞ。」)
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