少しずつ式が進行する。 式が終わればもう、私は隣の人の妻。 あの人は、こない。
「どうかしたか?」
「あ……ううん、なんでもない。 ちょっと疲れちゃったのかも。」
私がそう言えば、コロッと信じてくれる人。 あの人と比べちゃダメなんだろうけど、やっぱりどうしても比べてしまうの。
「それでは、誓いのキスを。」
不意に聞こえた神父さんの声。 まだ少し、幸せにはなれないキスだけど、ここで拒むわけにはいかない。 そっと目を閉じた瞬間だった。
「ちょっと待て!」
凛と響いた声は、静かだった教会を途端にざわつかせる。 騒がせた張本人はズカズカと大股で私たち、いや私のところまできてグッと私の腕を引いて。
「っ……な、んで、」
「お前の旦那は俺だって決まってるんだよ。」
少し強引に唇をあわせた彼、一樹くんはニヤリといつもの笑顔をみせる。 思わずその顔をぼーっと見つめていると、隣から彼が口を挟む。
「……な、なんなんだお前はっ!」
「んー、なんなんだって言われても……花嫁泥棒ってとこか?」
「わっ、」
「というわけで、名前は俺がいただいていくからな!」
ひょい、と抱き抱えられてそのまま強制退場。 唖然とする参列者たちを横目に、私はぎゅうっと一樹くんの首に抱きついた。
花嫁泥棒 (「遅くなって悪い。」) (「ちゃんと来てくれたから、いい。」)
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籍いれてからが妻、とかツッコミどころが多いのはご愛嬌ってやつです。 きっとヒロインと会長は昔付き合ってたとかで、なんか訳あって親の決めた相手と結婚することになったーみたいな雰囲気かと。
ただ花嫁掻っ攫う会長が書きたかっただけなんです…! 実はこのネタで中編書こうと思ってました。
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