「もしもし、名前?」
電話を通して久しぶりに聞く愛しい人の声。一瞬聞くだけで体から余計な力が抜けて安心する。最近気を張りすぎていたせいか「あずさぁ……」とやたら気の抜けた声が漏れる。あ、やばい。心配させる訳にはいかないのにな。
「名前……僕に隠し事しようなんて無駄な事考えない方がいいよ。僕は何でもお見通しだから。名前の事限定でね」
全て解っている様な梓の声。ああ、もう。この人には声だけでも。ううん、声がなくても解っちゃうんだ、全部。本当は遠距離が辛いこととか、ずっと寂しかったこととか。
「……ごめんね?梓と最近話してなかったから、ちょっと限界。梓補給させてー……?」
「はぁ……それならいつでも電話なりしてくれればいいのに。名前の為なら無理してでも会いに行くんだけどな」
「無理には駄目だよ。今度私から会いに行くんだから……梓は黙って待ってて」
言い終わってから、こっそり梓に会いに行く作戦の事を自分からぺらぺらと喋っていた事に気付きハッとする。私の馬鹿。
梓も気付いたようで、クスリと笑ってから「はいはい、楽しみにしてるよ」と。ああ……計画丸つぶれだ……。
「あぁ、そうだ。名前、今日僕がなんで電話したか解る?」
「え?なんでって……私の声が聞きたかったから?」
なんでそんな事聞くのだろう。普通は「用はある」とか「声が聞きたい」とかじゃないのかな?
「……そうだね、でも声を聞くだけならもっと僕は確実な方法を選ぶよ。例えば会いに行くとか」
「そっかぁ……確かにそうだね。ああー……梓に会いたいよぉ、やっぱり梓格好いいから心配なんだ。他の子に取られちゃわないかって。身近にいるっていう繋がりがない分、私達の繋がりが薄いような気がして……」
「会いたい」という言葉からせき止められていた本音がポロポロこぼれて、気付いた時には全て話したあと。うわ、なんで今日こんなに口が軽いんだ。繋がりが薄いだなんて、梓の気持ちを疑ってるみたいで……気分悪くしていないかな。
私が悶々としている間、梓はずっと黙っていて、数十秒か数分か経った頃、「ねぇ」とやっと話し始めた。
「……そろそろ僕の話を聞いて貰っていいかな」
「あ……ごめんね?」
ああ、それで黙っていたのか。
「……ね、こんな寒い中ずっと外で待ってる僕の身にもなってよ。話なら直接会って聞くから、ねぇ。扉早く開けて?」
……はい?
「寒い中ずっと外で待ってる」梓はそう言った、そして「扉を開けて」と。つまり、どう解釈しても梓が玄関先に居る、という事になるのだが。
座っていたソファから立ち上がって、そっと玄関の扉を開ける。すると、チェーンによってできた少しのスキマからあのパッツンが見えた。
「遅い」
「あ、あああ、ああ梓!?」
「それ以外に誰に見えるの。」
「早くチェーン外して」と若干苛立った声で言われ、改めて梓の顔を見ると鼻と指先が若干赤く、先程言った通り相当な時間外で待っていたらしい。
「う、うわあ……ごめんなさい……」
「ねぇ、なんなの。ずっと電話してこないとか。僕結構待ったんだけど?」
「うぅ……ごめんなさい」
「解ったからほら、早くもっとこっち来てよ。僕にも名前補給させて」
こっち来て、と言ってすぐ、梓に引き寄せられて「来てって言った意味ないじゃん」と口を尖らせると、「うるさい」と力を込められた。ちょっと、いやかなり息苦しい……
「……寂しいのは名前だけじゃないから」
ぼそりと呟かれた言葉、
同じ瞬間に同じ事を思うなんてなんだか、運命みたいじゃないか
僕達を繋ぐのは赤い糸なんかじゃなくて、
もっともっと強い何か
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Matiちゃんより、相互記念でいただきました!
ありがとうございます!
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