「あの。」
生徒会室に向かう途中、誰かに声をかけられた。 女の人のような高い声だけど、月子さんとは違う声。 振り向けば、少しおとなびた雰囲気を纏う女の人で。
「僕に何か用ですか?」
「会長さん、どこにいるかのかわかりますか?」
どことなく気怠げな声色の彼女は、制服を見るに同い年らしい。 僕は「もう少ししたらくると思うので、一緒に生徒会室に来ますか?」と聞くと、彼女は無言で頷いた。
「あ、知っているとは思いますが、僕は生徒会副会長の青空颯斗です。 あなたは?」
「……苗字。」
「苗字さんですか。」
よろしくお願いしますねと言って右手を出す。 ほんとは彼女の名前を知ってるけど、一応形式には則るべきだろう、ってことで。 でも彼女はただジッと手を見たあと、僕の目を見る。 声とは違い、はっきりとした目の力強さに引き込まれそうな錯覚。
「……苗字、さん?」
「手……握手?」
「え? あ、はい……イヤでしたか?」
さっきとは違って淡々とした喋り方の彼女に、慌てて手を引っ込めようとする。 でもそれより先に彼女の手が僕の腕を掴んだ。
「っ冷たい、ですね。」
「冷え症、なの。」
「それは大変ですね。」
ひんやりと冷たい手。 その手をつい両手で包んでいた。 少しでもあたたかさが伝わればいいのですが。
「……ふふっ、あったかい。」
柔らかく笑った彼女。 初めて見せた笑顔に心臓が跳ねる。 もっと見たいと、思ってしまう。
「キレイ、ですね。」
「え…?」
「笑っていた方が、僕は好きですよ。」
にっこり笑って言えば、彼女も笑ってくれた。 このときから、あるいは会った瞬間から、僕は彼女に惹かれていたのかもしれない。 僕は高鳴り出した胸を抑えて、彼女の手を引っ張り、生徒会室までの道を歩いた。
口下手少女 (「紅茶、いります?」) (「ありがとう、ございます。」)
- 1 - *PREV|NEXT#
|