「せんせー」
「なんだ、苗字?」
くいくいっと服の裾を引っ張って呼び止めれば、いつもの笑顔て名前を呼んでくれるせんせー。
私はにっこり笑って「なんでもないです」って言う。
「変なヤツだな。」
「変とか言わないでくださいー。」
「悪かった、悪かった!
そう拗ねるなって!」
わざと頬を膨らましてみれば、せんせーはがしがし頭を撫でた。
身長は頭半分くらいしか変わらないのに、こうして触れ合う度に“大人の男の人なんだなぁ”って感じる。
それが悲しくて、くすぐったい。
「……せんせー、私せんせーのこと好きだよ。」
「ははっ、先生も苗字が好きだぞ!」
「……そうじゃない。」
聞こえないくらい小さい声で呟く。
今はまだ知られなくていい。
でも、卒業したら、ちゃんと言うよ。
せんせーはきっと私のこと、ただの生徒だって思ってると思うけど。
絶対、振り向かせるからね。
今はまだ
(“生徒”でいいから。)
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