[]




初めはこんなんじゃなかったのに。


「金久保くん。」

「あ、こんにちは、苗字さん。」


ふんわりと柔らかい笑顔の彼。
この笑顔が好き。


「部長っ!」

「あ、夜久さんも、こんにちは。」

「こんにちは!
あっ、苗字先輩こんにちは!」

「……こんにちは。」


金久保くんの後ろからきた夜久さん。
1つ下の彼女は、とてもかわいくてまさしくマドンナ。
そんな彼女を誉くんも、きっと好きなんだ。

私のときとは違う笑顔に胸が痛い。
見てられないけど、ここで逃げたら負けな気がして、動けない。


「苗字さん?」

「……え…?」

「大丈夫ですか?」


金久保くんの声に顔を上げたら、目の前には心配そうに私の顔を覗く夜久さん。
視界の端っこに、金久保くんが見えたけど、それよりも大部分を占める夜久さんに、少し吐き気がした。

いや、夜久さんに吐き気がしたっていうより、自分勝手な気持ちで夜久さんに妬いた自分が醜かったから。
自分の中のどす黒い感情に、泣きたくなった。


「……大丈夫、ちょっと寝不足なだけだから。」


適当なウソをついたら、2人ともあっさり信じてくれて。
私はそれをいいことに、逃げるようにその場を離れた。



真っ黒、真っ暗
(いつから、こんなに醜くなったんだろう。)




- 1 -
*PREVNEXT#