「僕、今日が誕生日なんだよね。」
「え…!」
昨日の晩ご飯の内容を言うみたいに、さらりと言う羊。 ちょっと待って、言うならなんでもっと早くに言わないの。
「ちょっと羊、」
「あ、もうすぐ授業だ。 じゃあ僕は帰るね。」
そう言って私に文句を言う機会を与えずに羊は去っていった。 今から1時間目。 放課後までに何か考えなきゃ…!
「……で、俺に泣きついてきたわけか。」
「お願いします、錫也さまっ!」
お昼休み、私は食堂の調理室を借りて錫也に頼み込んでいた。 羊ならきっと花より団子……もとい、何よりおにぎり!
「おにぎり、か……まぁ名前がそれで納得してるならいいよ。」
「ほんと?!」
「あぁ。」
微妙な顔はしていたものの頷いてくれた錫也に感謝しつつ、早速おにぎりを作る。 羊、よろこんでくれるかな…?
放課後。 私は羊を屋上庭園に呼び出した。 さすがに冷える、けど用意した膝かけのおかげで少しマシ。
「寒いね……僕もいれてよ。」
「羊!」
「待たせてごめんね。」
そう言って私を後ろから抱きしめるようにして、膝かけに入る。 ちょっと大きめでよかった。
「ん、何それ?」
「あ、これは、」
「おにぎり?」
私が言う前にきらきらした笑顔で当てる羊。 よかった、喜んでくれたみたい。 私は振り向いておにぎりを手渡す。
「おにぎり、なんて名前らしいね。」
「え、そうかな?」
「だって普通、作るならお菓子とかじゃない? 名前、僕がタルト・タタン好きなの、知ってるよね?」
「あっ…!」
羊=おにぎり、が先にきた私にお菓子なんて発想はなかった。 もしかして、錫也の微妙な顔ってこれのせい?
そんな私の考えがわかったのか、クスクス笑う羊は笑顔で食べていいか聞いてきた。 私は頷いたら、嬉しそうにおにぎりを頬張る。
「ん、おいしい!」
「ほんと? 錫也に手伝ってもらったおかげだね。」
「……錫也に?」
私の言葉にムッとした様子の羊だけど、おにぎりを食べる手はとめない。 なんとなく妬いてるのかなーとは思うけど、おにぎりには勝てないのかと思わず笑ってしまいそうになる。
「ごめんね、羊。」
「……名前の誕生日に僕とタルト・タタン作ってくれるなら許す。」
「それでいいの?」
「それがいいの!」
そう言って笑う羊。 おにぎり持ってるからイマイチかっこよさには欠けるけど、そんなのちっとも気にならないくらい嬉しくて。
おにぎり (「それまで、傍にいててもいいの?」) (「oui! もちろん、当たり前だよ!」) (「ありがと。」)
―――――――― 羊くん、おめでとー! ごめんね、フランス語わかんないんだ、最後にちょこっと出すだけで精一杯だったんだ…!
2012.01.12 羊誕
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