最近、名前に避けられてる気がする。
「ねぇ、」
「あ、ご、ごめんっ、今から翼くんに用事が!」
とか、
「あのさ、」
「あっ、その、せっ、先生に呼ばれてて!」
とか、
「ちょっと、」
「ごめんっ、その……そう、月子先輩に呼ばれてて!」
とか。
こんなのが2週間以上続けば、さすがの僕もイライラしてくる。 名前のくせに、生意気。 そんなことを考えてたからか、ある日、名前が僕に声をかけてきた。
「あ、梓くん!」
「………。」
「えと、聞いてる…?」
「………。」
窓の外をみて、何も聞こえないフリ。 子どもみたいだけど、やられたことはやり返す主義だから、僕。
「あの、夕方に屋上庭園にきてほしいの。 あ、べ、別にムリにとかじゃないし……その、できれば来てほしいな…って。」
それだけだから、って言って去ってく名前。 夕方ってアバウトすぎるよ。 なんて思いながら、ため息をついた。
もちろん、授業なんて集中できない。
「……あ、もう7時。」
終業式が近いのもあって午前中授業だったから、はやめに寮に帰って課題をしたり読みかけの本を読んだり。 部活は先生の都合でなしだし、こんな精神状態では自主練も意味ない。 そう思ってたからこっちにしたんだけど、失敗だったかも。
“あの、夕方に屋上庭園にきてほしいの。”
不意に思い出した名前の言葉。 いや、もう外真っ暗だしさすがにいないだろ。 そう思うのに、何故か不安になってきて。
「チッ、世話の焼ける」
ぼそりと呟いたあと、防寒対策をして寮を出る。 焦りからか、いつもより早足になっていた。
バンッと屋上庭園のドアを開けると、名前はすぐに見つかった。 寒いのか、ベンチに座って小さくなっていた名前は僕だとわかると嬉しそうに笑った。 真っ赤になっていた鼻や頬があまりにも痛々しくて。
「梓く、」
「っ、バカじゃない?」
「ぅわっ!」
立ち上がって僕のそばに来ようとした名前に、僕は駆け寄って抱きしめ、精一杯の悪態をつく。 思った通り、名前の体はひどく冷えきっていた。
「あ、梓くん?」
「いつからいたの。」
「えっと、4時半、くらいかな?」
「バカでしょ、信じられないよ。」
「そ、そう?」
「そうだよ。 電話でも何でも、すればよかったのに。」
そう言ってもっとぎゅっと抱きしめたら、「それは盲点だったなぁ。」なんて呑気に笑う名前。 呆れて言葉に詰まってる僕を知ってか知らずか、名前にちょっと体を離された。
「まぁ何にしても、梓くん来てくれたんだし。」
「お人好し。」
「ふふ、ありがとう。」
「褒めてないよ。」
そう言えば「えっ?!」って言う名前。 疲れる、けど久しぶりな感じが何とも言えないくらい嬉しくて。
「ていうか、なんで呼んだの?」
「あのね、これ。」
「……なにこれ?」
照れ隠しに話題をそらせば、思い出したように何かを差し出された。 受け取って、断りをいれてから開けてみる。
「……ペン?」
「えと、何も思いつかなかったのですよ。」
それで、前にペンほしいなって言ってたの思い出して。 なんて笑う名前に、今さらもう買ったなんて言えない。 まぁちゃんとこっちも使うからいいよね。
「あ、あの!」
「ん、なに?」
「お誕生日おめでと!」
「………え?」
にこやかな名前に日付を確認すると、確かに僕の誕生日で。 そんな僕の様子を見て、不安になったのかオロオロする名前に「ありがとう」って言うと笑顔になった。 うん、名前は笑った方がずっとかわいい。
サプライズ (「もしかして僕を避けてたの、って。」) (「ごめんね、驚かせたかったの!」)
―――――――― 梓くん、おめでとー! うん、ほんとは中編書こうとしたんだけど、ムリだった。 ごめんね。
2011.12.20 梓誕
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