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「名前ー!」

「きゃあっ?!」


どん!という衝撃と、全身を包み込むようなあたたかさ。
また、翼が私にタックルする勢いで抱きついてきたんだ。


「翼、おも、」

「おはよーなのだ!」

「……あぁ、おはよ。」


人の話を聞かず、後ろから顔を覗き込む翼に疲労感。
ちなみに、私は梓とは小学校からの付き合いで、高校進学後、彼の従兄弟である翼と会った。
正直、梓の従兄弟で、成績トップ、ってことは落ち着いた博学な人なのかと思ってたのに。
私の予想は見事に裏切られた。


「翼、名前困ってる。」

「ぬぬ?」

「離してあげなよ。」


ひょっこり現れた梓は、呆れながらも翼にそう注意してくれた。
うう、さすが梓、これで離してもらえる。
と思ったのも束の間。


「イヤなのだ。」

「ちょっと、翼?!」

「はぁ、翼。」


ぎゅっとより強く抱きしめる翼に、びっくりして声をあげる私とため息をつく梓。
それでも翼はめげない。


「名前困らせても仕方ないだろ?」

「でも、イヤなのだ!」

「く、くるし…!」


身長のせいか、首が絞まる。
ちょっと、ほんとに今日はどうしたの。


「こうしないと、名前、違うヤツのとこに行っちゃう!」

「え?」

「……あぁ、なるほど。
翼も結構大胆なことするね。」


意味がわからない私をよそに、従兄弟だからか通じ合う2人。
私にもわかるように言ってよ。


「でも翼、名前は鈍いからちゃんと言わなきゃ伝わらないよ。」

「な、鈍くな…」

「ぬぬ、そうなのか?」

「いや、あの、」

「そうだよ、だからがんばって。」

「ちょっと、」

「わかったのだ!」


なに、こいつら。
私のことスルーなの?
そんなこと考えてたら、梓はひらひらと手を振ってこの場を去っていく。
いや、意味わからん。


「名前!」

「わっ、翼?!」


状況についていけず、呆然と梓を見送ってると、名前を呼ばれ、勢いよく視界が反転して目の前に翼がドアップでいた。
ち、近い…!


「俺、名前のこと好きだぞ!」

「……は?」

「だから、俺のそばにいてほしいのだ!」


真剣な目を至近距離で見てしまったせいか、無意識に頷いていた。
それを見て喜ぶ翼に、何故か今さら顔が熱くなった。



離さない
(「昨日、梓といたら告られてるのみたのだ。」)
(「あぁ、なるほど。」)




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