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誕生日なんて、僕には関係なかった。
名前すら満足に呼ばれない幼少期を過ごした僕にとって、そんなものは無縁でしたし。

それを悲しいと思ったことはないし、思うこともないだろうと思っていました。
……そう、思っていたんです。


「え、なに、その顔…?」


驚きのあまり、無反応だった僕。
それを見て不安そうに「間違えちゃった…?」なんて言うものだから、少しだけ笑ってしまった。


「えっ、あれっ?」

「ふふ……すみません、あってます、今日ですよ。」

「よかった…!
って、ならどうして笑うの!」


ほんとに安心したように息を吐く名前さんは、すぐにぷぅっと頬を膨らます。
ころころと変わる表情は、いつだって僕を穏やかにしてくれる。
きっと、わかってないんでしょうけど。


「名前さんに言われるまで忘れてたんですよ。」

「今日が15日ってことを?」

「と言いますか、誕生日だと言うことをですかね?」


確かに僕の中で今日は15日でした。
でもそれ=誕生日、が結びつかなかったというか……気にもとめなかったんですよ。そう言えば、悔しそうな悲しそうな……泣きそうな顔をしていて。


「……そんな顔しないでください。
あなたのおかげで思い出したんですし、それだけではダメですか?」


見ていられなくて、そう言ってぽんぽんと名前さんの頭を撫でる。
俯いた顔からは名前さんの表情は見えないですが、スカートをぎゅうっと握りしめているのが見えて。
やはり、こんな話は言うべきではなかったですかね。


「……が、………げるからっ…!」

「…はい?」


少し反省していると、さっきまで#名#さんのスカートを握りしめていた手が僕の服を掴んでいて、少しもごもごとした声が聞こえたもののなんて言ってるかまではわからなくて聞き返す。
すると俯いていた顔をバッとあげたおかげで、僕の視線と彼女の視線が交わった。


「これからは私がっ、毎年お祝いして誕生日を教えてあげるからっ!」


真っ赤な顔で必死に言葉を紡ぐ名前さんがかわいくて。
そして、愛しくて。


誕生日は、僕にとって関係ないもので。
それでもあなたがいてくれるなら、特別な日にしてくれると言うのなら……それはもう何にも変えられないくらいかけがえのない日になってしまうのですから僕は案外簡単にできているのかもしれませんね。


普通の日、特別な日
(それは僕の生まれた唯一の日。)



*颯斗くん、おめでとー!

なんだろうね、なんかありがちネタが書きたかったのに撃沈!


2012.09.15 颯斗誕




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