雨羽様リクエスト

中2後半の遠山君。

―――――――

「名前、今日俺ら部活ないんや。だから中学行かん?」

「ええよ。」


この時、肯定を返してなければ、よかったのか、よくなかったのかは分からない。


「久しぶりに来たわ。」
「名前は全国大会前も来てなかったもんな。」

少し肌寒くなったこの季節まで私はここに戻らなかった。
掴みの門は相変わらず堂々とそびえ立つ。白石と謙也がボケながら掴みの門をくぐる姿に笑ってしまった。

「相変わらずアホやなあ。」
「お前、何普通に通っとんねん!」
「私と謙也と一緒にすんなよな。精神年齢が違うんや。・・・・あ、光!」

部室から出てくる財前を見掛けて声をかけた。

「お前、俺らが引退して部活来てたら文句言うてたくせにお前も来とるやんか」
「先輩ら、久しぶりっすね。先週の土曜日に千歳先輩も来てましたわ。」
光は千歳の名を出すとき明らかに私を見て言った。

「そう・・・・・。・・・・・あれ?金ちゃんは?居残りなん?」

誰よりも先にテニスコートに来てラケットを持っていたはずの金ちゃんが見当たらない。

「・・・・・・・チッ。あのアホ・・・。」
表情に陰りを見せた光に疑問を抱きながら私は校舎に足を向けた。

「金ちゃん、探してくるわ。白石達はテニスしといで。せっかく来たんやから。」

「あ・・・・!名前先輩!」
「何や?光。」
どうも光の様子がおかしい。

「・・・・なんもないっすわ。多分あいつ、3階の空き教室にいます。」
「わかった。」




3階まで登るだけで息が切れそうになる。

「もう歳なんかな、金ちゃんどこやろうか・・・・。」

自虐気味に独り言を零しつつ金ちゃんを探す。

「声出すなって。」

金ちゃんの声が聞こえてきた教室に近づく。

「あっ、遠山くっ・・・・」

女の子の甘ったるい声が聞こえて、疑問に持ちつつもその教室のドアに手をかけた。

「金ちゃ・・・・・。」

まさか。金ちゃんが可愛い弟のようだった金ちゃんが女の子と情事の真っ最中だなんて誰が思う?

「・・・・名前・・・・。」
「あ、邪魔してゴメン」

勢いよくその教室のドアを閉めてそのままズルズルと座り込んだ。

「嘘やろ・・・・・。」

男、だった。

可愛くて弟のようだと思っていた金ちゃんは男だった。

フラフラとしっかりしない足腰に鞭を打つように立ち上がって歩きだした。


「待ってや・・・っ」


息を切らしながら、金ちゃんは私の腕をしっかりと掴んだ。

「金ちゃん・・・、さっきの子はどうしたん?」

「置いてきた、あんな奴の代わりはいくらでもおる。」

「・・・・身長、伸びたな。」

150センチ程しかなかったはずの彼は今は私よりも少し高い。165センチ程だろうか?

「・・・・名前、」
「戻って、ちゃんと練習、しぃや。」
「・・・・名前、」
「私、コート戻るわ。」
「名前っ、聞いて、頼むから聞いてっ・・・・」

掴んだままの私の腕を引き、彼は、一番近くの教室に私を連れて入った。

「金ちゃ・・・・っ!」

そして、そのままギュッと抱き寄せられた。

「・・・・好きやねん。ずっと、ずっと好きやってん。名前が千歳と付き合う前から。あんな女達なんか全部お前の代わりやねん。」
「無理や・・・・。」
「なんでなん?まだ千歳の事が好きなんか?ワイじゃアカンの?」
「チィは、関係ないっ・・・。けど・・・、金ちゃんをそういう対象として見た事ないんや!」

ずっと、ずっと、弟のようだと思ってたのに。
ずっと、ずっと、可愛いままだと、純粋なままだと思ってたのに。
「見てぇや。これからでもいいから見てぇや・・・・。」

逸らしたはずの視線はいつの間にか、彼の熱っぽい視線と絡みあっていた。

流れる様に私の唇に唇を重ねる、その動作に私はドギマギとした。抵抗しようも、する事が出来ない。

「やめてっ・・・・・」

隙をついて、金ちゃんを突き飛ばして教室を飛び出すように逃げた。

「なんで・・・・っ・・・・。」

涙が止まらない。

コート戻ったら、懐かしい皆が揃っているのだろうか?
でも、こんな顔じゃ戻れない。
どうしようか。

中庭で崩れ落ちるように腰を落としてグスグズと泣いた。

「・・・・・先輩、見たんっすね。なんかされましたか?大丈夫っすか?」

「・・・・ひかる・・・・。」

光は全部知ってたんや。

「あのアホ、先輩らが卒業してからずっとっすわ。でも分かってやって欲しいとは言わんけど、ただ名前先輩の事が好きなだけなんです。」

「・・・・帰るわ・・・。白石達にも言うといて・・・・。」



少し考える時間が欲しかったんや。

 





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