幼なじみの後輩でクラスメイト。始まりは簡単な事だった。

なんで、こんなに好きになったのか、なんで、こんなに愛おしいのか。始まりは簡単だったのに今では、好きで、好きで、苦しい。


「なんでなん?名前。」

「ゴメン、光。」


差し出された冷たい手を無視した。

「私、やっぱり謙也が好き。」

泣くな。私に泣く権利なんてない。

吐いた息が白くて、もう冬だという事を実感した。


「なんでせめてテニス部以外の人にしてくれんかったん?なんで謙也さんなん?

・・・・・あの人に勝ち目なんかないやんか。」


「うん、ゴメン。」


「せめて部長とかユウジ先輩とか・・・・、あの人らでも勝ち目無いのに、謙也さんになんて全く勝ち目ないやんか。」


「ゴメン、光。バイバイ。」


「名前・・・・・っ。」

光が小さく私の名前を呼んだ。

私は振り返らずに、マフラーを巻き直しながら前へと進む。

止まらない涙を拭う事もせずに。


「名前、」

「謙也・・・・・っ!」

家が隣同士の謙也と私。お互いの家の間に謙也は立っていた。

飛びつく様に抱き着くと謙也はゆっくり頭を撫でてくれた。

「泣く程好きならちゃんとホンマの事言えばよかったやろ?」

「言えば、光、私の事待つやんか!」

「せやな。」

「そんなん、光が可哀相やんか。」

「・・・・せやな。」


私は、謙也の腕の中で声を上げて泣いた。








「名前ちゃん、もう行ったんかな?」

部長が突然言った言葉に顔を上げた。

「9時の新幹線乗るっていうてたわ。」

「そっか、寂しなるな。」

部長と謙也さんの間で当たり前の様に交わされる会話。


「・・・・名前・・・・、どっか行ったんですか・・・・?」



俺の質問に、部室の空気が凍った。

「なんや、財前、知らんかったんか?」

ユウジ先輩でさえ知っているようだった。

「財前だけには言うなって口止めされてたからな。」

なんや、それ。

「名前、親の都合で東京に引っ越してん。」

なんやねん、それ。

なんで俺だけに黙って行くねん。

「アホと、ちゃうんか・・・・。」

「光、これ・・・・、名前からの手紙や。」

謙也さんから受け取った手紙を読んで気付けば部室を飛び出していた。

走って、走って、新大阪駅に着いた頃には、9時5分だった。


「間に合わんかった・・・・・・。」


グシャリと手に握りしめた手紙が音を立てた。





 光、大好き。
 蔵先輩よりも、
 千歳先輩よりも
 ユウジ先輩よりも、
 小春先輩よりも、
 金ちゃんよりも、
 銀さんよりも、
 小石川先輩よりも、
 謙也よりも、

  光が好き。

 また会えますように。




 
―――――――――

財前君ってなんであんなに
素敵なんだろうか。







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