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▼ 人類最強シンデレラになります!【後半】

数ヶ月後。
どんなに時間が流れても、ナマエを探すことをやめなかった。

一体どこで何をしているのか…それさえも分からない。心配でならなかった。あの馬鹿な女が一人で暮らしていけるはずがない。夜はちゃんと一人で眠れているのか…そんなことばかりが頭を占め、ろくに眠れていないのは自分の方だった。

「兵長…少し休んだ方が…」

「いや…問題ない…」

「けど…ここ最近、ずっと休んでないじゃないですか…」

ペトラの声を遮って厩舎へ向かおうとすれば、急にエレンが目の前に立ち塞がった。

「どうした…」

「兵長…俺、思い出したんです…」

「あ…?」

「あいつきっと…クロバル区の外れの村にいると思います。ナマエの両親が最後に看病してた場所ですから…」

それだけ言い残して立ち去ろうとするその背中を咄嗟に呼び止める。

「待て、エレン…お前、なぜそれを俺に教える。自分で行こうとは思わなかったのか?」

「あいつが…ナマエが待ってるのは…きっと兵長ですから」

そう言って寂しげな顔で笑うエレンを直視できずに「そうか…」と俯く。すぐにクロバル区へ向かおうと足を動かせば背後からペトラに呼び止められた。

「兵長…ナマエに伝えてください。あなたを認める、と…それだけ言えばきっと伝わりますから」

「あぁ…分かった」

この数ヶ月、俺の胸の内はすっかり冷えきっていた。あいつに出会う前に戻っただけだというのに、一度知ってしまった感情は消し去ることなどできなかった。

自分の馬に跨がるとその両腹を蹴って勢いよく駆け出す。今度こそ必ず見つけると、そんな決意と共に手綱を握りしめた。


――――――



「わたし大きくなったらシンデレラになりたい!」

その言葉に胸にあてていた聴診器を止めて大きく目を見開いた。

「シンデレラ…?」

「そう、シンデレラ!」

女の子はその瞳をキラキラ輝かせて大きく頷いた。

「シンデレラも意外と大変なんだよ?」

「え…どうして?」

「王子様が優しい人だったらいいけど…目つきが悪くて、意地悪で、こわーい人だったらもう最悪なんだから」

そう熱弁すれば目の前の女の子は目をまん丸とさせた。

「そんなのイヤ…!」

「でしょ…?はいはい、今日はもうおしまい。お家の人が心配するからそろそろ帰ろうね」

クロルバ区の外れの村で小さな診療所を手伝っていた。広場に集まった子供たちを診察していればいつの間にか日が傾きはじめていたことに気付く。手を振って小さくなる背中を見送っていればふいに背後から声がかかった。


「悪かったな…目つきが悪くて意地悪な王子で…」


その声に、全身が強ばる。大きく目を見開いてゆっくりと振り返れば、もう二度と会うことはないと思っていた男が立っていた。

数ヶ月ぶりに見るその姿に息が止まる。

「リヴァイ……」

しばらくどちらも動こうとせず、ただ見つめ合う。不自然なくらいの沈黙の中、時間だけが流れていく。そしてそれに耐えきれなくなった私はあらぬ方向を指差して叫んだ。

「あぁ…!!あんな所に、ザックレーのおじさんが!!」

「あ…?」

リヴァイが怪訝な顔つきで振り返った瞬間、医療バックを持ち上げてダッシュで逃げる。相変わらず逃げ足だけは自信があった。この村にきてまだ数ヶ月しか経っていないが、それでもリヴァイよりはここの地形に詳しいはず。

建物と建物の影に隠れてほっと息をつく。

それにしても何故ここがバレたのか…
ドキドキと波打つ心臓を押さえて路地を覗き見ようとした瞬間、ダンッと鈍い音が辺りに響きわたった。

「おい、てめぇ…最初からふざけた奴だと思ってたが…本気で俺を撒けると思ってんのか…」

顔のすぐ横にめり込んだ拳にヒィッと悲鳴をあげた。

「ごっ…ごめんなさい…!」

あまりの恐怖から肩を跳ねさせ目を瞑ったまま俯く。

「…顔を見せろ」

その切なげな声にうっすらと目を開け顔をあげる。リヴァイは悲しげに顔を歪めていて思わず瞬きを繰り返した。

「この数ヶ月…俺がどんな思いでいたかお前に分かるか…」

「え……」

「何が生まれ変わったらだ…ふざけたこと言いやがって…」

「え、ちょっ…ちょっと待った…!!まさか、あの手紙読んだの!?」

リヴァイの口から出た内容にギョッとして固まる。あの手紙はビリビリに破いて捨てたはずなのに、一体どういうことだ。

「…お前、人の気持ちをこんなに掻き乱しておいて、なぜ突然消えたりした…」

その言葉に視線を逸らすと、唇を噛みしめる。

「わ、わたしたちは…もう夫婦でも何でもないんだから…一緒にいる意味だってないでしょ…」

「あぁ…そうだな、確かに今の俺たちは夫婦でも何でもねぇ…」

「………」

その言葉をリヴァイに言われるとなぜか胸に突き刺さった。だったらどうして今更追いかけてきたりなどしたのだ。溢れそうになる涙をぐっと堪えていれば急に左手を取られた。

「だからこうしてやり直しに来た…」

「え…」

「俺と結婚してくれ…」

その言葉に一瞬にして頭が真っ白になる。しばらく何も考えることが出来ずに茫然としていれば、リヴァイはまるで壊れ物でも扱うように優しく私の手の甲に口付けた。

「返事を聞かせろ…」

「わ…わたし…品がないけど…」

「最初からそんなもん、お前に期待してねぇよ…」

「嫌なことがあったらまた逃げ出すかもよ?」

「またこうして連れ戻すだけだ…」

次第に堪えきれずにぼろぼろと涙が溢れだす。

「わっ…わたしでいいの?」

「お前以外は考えられない…」

「それに…それにっ…」

「おい、いい加減黙れ…」

リヴァイは舌うちすると、まるでその先の言葉を塞ぐように強引にキスをした。離れていた時間を埋めるように、何度も何度も。私はリヴァイの首に腕を回すと、それを受け入れながら小さく頷いた。



その日、私たちは再び夫婦になる約束をした。
今度こそ偽りではなく本当の夫婦になる約束を。




――――――






朝から古城が騒がしい。

続々と馬車が止まり、中から出てくるのはザックレー総統やエルヴィンにハンジ、そしてストヘス区から区長も訪れていた。

「ナマエ、とても綺麗よ…!」

ペトラの興奮気味な声は部屋中いっぱいに響きわたった。そう言われて鏡を覗き見れば、まるで別人のような自分の姿に大きく目を見開く。身にまとっている純白のドレスはザックレーのおじさんが用意してくれたもので、レース刺繍がほどこされたベールはペトラが作ってくれたものだった。

かつて礼拝堂として使われていた古城のホールに簡易的なチャペルが用意された。重厚な音楽と共に扉が開けば、そこに集まった人の数に驚いて固まる。

まさかこんなに沢山の人が集まってくれるとは思ってもいなかったのだ。

バージンロードをゆっくりと進んでいく。
隣を歩く兄さんはやっぱり緊張でガチガチに固まっていて、その姿に小さく苦笑する。

一歩一歩進みながら
ここに来てからの一日が思い出された。

ホームシックになった日。
一人、小高い丘でパンをかじった日。
思いっきり声をあげて泣いた日…

今ではどれもいい思い出だった。

バージンロードの先で待つリヴァイと目が合う。

私はこの人の妻になる。いろんな過程を乗り越えて。それはやっぱり幼い頃から思い描いていたものとはちょっと違うけど、今度は胸が痛むことはない。

隣を見れば、エルヴィンにハンジ、リヴァイ班のみんなに大好きな古城の兵士たち。

そして最後にエレンと目が合う。

今見えている景色は、初めてここへ来た日とはまったく違っていた。

最初は嫌で嫌で仕方なかったこの場所が、今では大切な場所になった。自分の居場所は自分で作るものなのだと知った。

リヴァイの前に辿り着くと、小さく笑ってその手を握る。

すこやかなときも、そうでないときも
この人を愛し敬いなぐさめ助け
命の限り、かたく節操を守り
共に生きることを誓う

すべての言葉が胸の中に溶け込んでいくようだった。



誓約の儀式を終え、牧師役のオルオが「誓いのキス」をと言えば、「断る!!」と言いかけた口を噤んだ。リヴァイはベールを上げて私の両肩をがっしりと掴んだ。

「覚悟はいいだろうな…」

「う、うん!!ドンとこい!!」

覚悟を決めてそう答えればゆっくりとリヴァイの顔が近づいてきた。が、やはり耐えきれずに寸前のところでその顔をブロックする。

「おい、この手をどけろ…」

「むっ…むり…!やっぱりこんな大勢の前で恥ずかしい…!」

ぐぐぐと強引に近づこうとうするリヴァイを必死で押さえて俯く。

「なんだこの可愛い生き物は…」

「おい、リヴァイ…声に出てるぞ…」

エルヴィンの声が響きわたれば、ホールは笑いに包まれた。それに呆気にとられていた私は今度こそふいをつかれ唇を塞がれた。

いつかの日のようにタイミングよく祝福の鐘は鳴り響かなかったけど、代わりにもっと祝福に溢れた拍手に包まれる。

それは、まるで夢のような幸せな時間だった。



そう、私はずっと夢をみていた。

いつかお金持ちの王子様が白馬に乗って現れ、私を攫っていく。か弱い私は、その愛する人の腕に包まれていつまでも幸せに暮らしていく。

そんな夢 ── 。




でも今は違う。

人類最強と呼ばれる彼の隣で胸を張って一緒に歩んでいきたい。この人が隣にいてくれるなら何があってもきっと大丈夫。


だから私…



人類最強のシンデレラになります!



Fin.

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