kuzu
首ったけ!2nd
兵長の優しさはいつも不器用



「エレン!!!」


朝食のあと、エレンの硬質化の実験に付き合った私は、始めて巨人化した彼を見た。それは想像以上のもので、人の指示に従う巨人と言うのもなんだか別世界の映画でも見ているような気分だった。…でも、エレンが硬質化に成功すれば人類はまた一歩進むことが出来る。私とリヴァイ兵長の距離も一歩縮まるのだ。


しかし、現実はそんなに甘いものではなく、目の前の巨人エレンは硬質化に成功することなく、とうとう三回目の実験で倒れこんでしまった。すぐにエレンの元へと向かうミカサに、兵長が非難の目を向ける。


「オイまた独断行動だぞ、あの根暗野郎は。処分を検討しとくか?」
「…まぁ仕方ないですよ。兵長はもう少し、恋する乙女の気持ちを理解した方がいいです。」
「あ?何だと?」
「恋する乙女の気持ち、です!好きな人が命を賭けて実験してるんですよ?きっとミカサは気が気じゃないですよ。…私が同じ立場なら、と思うと胸が痛みます。」


そう言ってチラッと兵長の方を見たが、兵長は真っ直ぐとエレンの方を見ていたので私の言いたかったことはきっと兵長には何一つ伝わっていないだろう。その上、「そんなクソみてぇなもん分かりたくもねぇな。」と返ってきた。…まぁそんなところだろう。私自身も対して期待していなかったし、それより今はそんなことよりエレンの身が第一だ。私もミカサやハンジさんに続いて崖を降り、エレンに駆け寄った。



***



それから、エレンが目を覚ましたのは次の日だった。実験が失敗した旨を彼に伝えると、顔に悔しそうな表情を浮かべる。


「俺達はそりゃあガッカリしたぜ…。おかげで今日も空気がドブのように不味いな。」


そこに追い打ちをかけるように兵長が口を開く。


「…いいか?この壁の中は、常にドブの臭いがする空気で満たされている。それも百年以上ずっとだ。だが、壁の外で吸った空気は違った。地獄のような世界だが、そこにはこの壁の中にはない、自由があった。俺はそこで初めて、自分が何を知らないかを知ることが出来たんだ。」
「「「………」」」


104期の新兵たちやハンジさんが兵長を見つめる。エレンは相変わらず先ほどの表情を崩さない。


「…つまり、今回私たちはエレンが硬質化出来ないことを知ることに成功した!それ以外にも今回の実験でたくさんの有益な情報を得ることに成功した!今日の実験の結果を活かせるかどうか、これからも一緒に頑張ろう!って兵長は言いたいんですよね?」
「…あ、あぁ…。」
「さ、さすがだ…。」


兵長の言葉を私が翻訳すると、コニーが関心したように呟いた。自慢ではないけれど、私はもうかれこれ一年も兵長のことを思っているのだ。それなのに私に見向きもしない兵長のことは置いといて、兵長に関してはそんじょそこらの他の人に比べれば遥かに分かっていると胸を張って言える。


「じゃあ、エレンも特に異常もなく目が覚めたし、実験の結果も文字に起こしたし、私は行きますね。」


そう言って立ち上がった。エレンの目が覚めた時のことを最後に記し、胸ポケットにそれを入れる。私の仕事は、伝達係だ。どんなに兵長のそばを離れたくなくてもそれは変わらず、そしてそれが皮肉にも私が兵長のそばに居られる理由だ。


立ち上がり、扉へと歩いて行くと兵長も同じように立ち上がり私に続いた。…どうやら前回同様、本部まで旅立つ私を見送ってくれるらしい。兵長の優しさはいつもすごく不器用で、きっと他の人は気付かないかも知れない。だけど、私にははっきりと伝わっていて、そこに言葉なんてむしろいらないのだ。


馬を出す準備をしている間も、兵長は黙って私のことを見ていた。馬に跨るとようやく口を開いた。


「…気を付けろよ。」
「…え?」
「エレンを巨人化すると、どうしても狼煙が上がっちまう。…俺たちがそこにいると、敵に大声で知らせるようにな。ある程度離れた場所で実験したとはいえ、あそこからここまでを割り出すのはそんなに難しいことじゃねぇだろう。…となると、てめぇ一人を殺るくらい赤子の首を捻るより簡単だろうな。」
「…………。」


今朝、みんなに話した覚悟の二文字が心によぎる。本当は、不安で不安で堪らないし、ずっと兵長のそばに居たい。だけど私は、決めたんだ。


「じゃあ、そうなった時後悔しないように…もう聞き飽きたと思いますが、言わせて下さい。好きです、リヴァイ兵長。また、必ず戻ってくるのでその時にもう一度言わせて下さい。」
「……勝手に言ってろ。」


そう言って兵長は踵を返し、元来た道へ歩き出した。私も、自分の進むべき道へと進む。途中、数メートル走らせたあとで振り返ると、足を止めてこちらを見ていた兵長とばっちり目が合った。それもほんの一秒ほどで、また兵長は背を向けて歩き出した。




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