kuzu
首ったけ!2nd
私の好きな気持ちは変わらない



すぐに駆けつけて来てくれたアルミンに、もう一度先ほどの話を事細かに説明してもらった。壁外調査以降の出来事は掻い摘んで説明されただけだった私にとって、現状を理解するのは元々の頭の出来のせいもありかなり難しかったのだが、アルミンの話はすごく分かり易かった。きっと兵長になら、"何度同じことを言わせるんだこのクソ野郎。てめぇを伝達係にしたのは間違いだった、明日からは巨人の餌係だ。"くらいは言われていたと思う。お礼にもう一杯紅茶を淹れてあげると、パァッと花でも咲いたような笑顔で礼を言われた。


「ナマエさんに淹れてもらった紅茶って、何だか他の人のより美味しい気がします。」
「…本当?兵長に鍛えられたのかな?」


そう言うとアルミンは目を細めてまた笑った。そう言えば、ペトラさん達にもそんなことを言われた気がする。チクリと痛んだ心に気付かれないように、笑い返すと笑顔のアルミンが更に微笑んだ気がした。エレンもアルミンも、もちろん他の子達だってそうだけど、みんながずっと笑っていられるような世界に、早くしたい。


「僕、思うんですけど…兵長って思っていることを言葉にするのがすごく苦手なんだと思うんです。」
「え?」


マグカップを両手で包み込むように持っているアルミンを見る。


「兵長のナマエさんを見る目、時々すごく優しい気がします…。それに、伝達係だってまだ体が完全に回復していないナマエさんにだからこそ、任せたんだと思うんです。」


アルミンの言葉を聞いて、耳を疑った。私が伝達係に任命されたのは、てっきりリヴァイ班に戻りたいと駄々をこねた私を、兵長が自分から少しでも遠ざけるためだとばかり思っていた。


「だって、僕たちとここに居るといつ誰が襲ってくるか分からない…そういう状況に、兵長は手負いのナマエさんを置きたくなかったんじゃなかったんでしょうか…。さっきのエレンじゃないですけど、兵長だって少なからずナマエさんの負傷に責任を感じていたはずです。でないと、自分の馬に乗せて壁内まで帰ったりしないし、女型のことがあっていつも以上に忙しかったあの時に自分で病院まで送ったりしませんよ…きっと。言葉には出ていないかも知れませんが、きっとその裏に兵長の本心があるはず、だと僕は思います。」


そうハッキリ言い放ったアルミンに驚いて言葉を出せないでいると、お二人のことを何も知らない僕なんかが口を挟んでしまってすみません、と謝られた。…そうなのか?兵長が口下手なのは、ペトラさん達も言っていたし自分でも薄々感じていた。だけど、伝達係に任命された理由とか、兵長が私を見る目が時々(多分100回に一回くらい)優しいとか、自惚れてしまっていいんだろうか。…思えば、気持ちを告げた時も嫌がられるかと思いきや喜ばれこそしなかったものの、予想の反応と違った。それに「巨人を絶滅させることが出来たらその時は私のことを見てくれますか?」の返事は「それまでてめぇが生きていたらな」だった。これは肯定と取って良かったのだろうか。私の大好きな兵長は、何を考えているのか予想するのが難しい。


「そんな…、謝らないで。そう言ってもらえると嬉しい。でも、兵長が私のことをどう思ってくれているかはあまり私の中では重要なことじゃないかも…。って言うのも、その気持ちがどうであれ私が兵長のこと好きな思いは変わらないし、って、え?」


その瞬間ドンッと鈍い音がして視界からアルミンが消えた。目線を下に落とすと椅子に座っていたはずのアルミンが尻餅をついていた。アルミンの座っていた椅子を持ち、眉間の皺を深く刻んだ兵長が彼を見下している。


「アルミン、てめぇ掃除をサボってお喋りか…。」
「ち、違うんです兵長!私が呼んだんです!」


いたたたた、と腰をさすって立ち上がるアルミンを庇うと兵長の視線は私の方へと向いた。ギロリ、といつもの巨人を見るような目を私に向ける。


「…ほう。急ぎの仕事が入ったのはてめぇの方だと思っていたが。くだらねぇことくっちゃべってる暇がありゃ手を動かせ。チンタラしてる暇なんかないぞこのクソ野郎。」
「報告書ならもう出来ました!!ほら!」


そう言って先ほど仕上げたばかりのそれを兵長に差し出すと、私を睨んでいた兵長の目が報告書の文字を追った。…誰かが部屋に入ってきたのに気付かないほど、兵長について熱く語っていたとは。そしてよりによってご本人登場。思いを伝えたのだから、別に隠すことなんか何もないのだけどそれでもやっぱり、聞かれていたとなれば恥ずかしい。しばらくして兵長は「フン。」とよく分からない言葉を発して私に報告書を突き返した。だけどこの反応は恐らく"合格"だ。アルミンに感謝しなければ。その彼も兵長が報告書を読んでいる間に、掃除の持ち場に戻ったらしく、部屋には私と兵長の二人っきりになった。…なんか二人っきりって響きに少し色っぽい何かを期待してしまう。


「…言っておくがてめぇの身を案じて伝達係にしたんじゃねぇーからな。」


報告書を持っていく準備をしていると、兵長がまた眉間に皺を寄せながら私に言った。一体いつから私達の話を聞いていたんだろう。


「てめぇの頭じゃ分からねーかも知れねぇが、伝達係こそ危険の伴う仕事だと俺は思っている。中央憲兵の奴らは俺たちのことを探している。これからしばらくは、定期的に隠れ家を移動する生活になるだろう。本部から離れちまった今、上の指示を仰ぐためには伝達が必要不可欠だ…。となると、奴らが目を付けるのはお前だ。」


兵長はそう言うと、先ほどの会議の際に飲み干すことが出来なかったのか、もうすっかり冷めてしまったであろう紅茶に再び口を付けた。


「なんせ、てめぇさえ捕まえちまえば俺たちの今後の動きから居場所まで分かるんだからな…。それでだ、何で俺がそんな大事な役目をてめぇなんかに託したと思う?」
「………。」


グッと拳を握りしめて、考える。頭の中の点と点が繋がった気がした。


「そ、それは…もしかすると兵長も私のことを、ぐぇっ!」


顔を赤らめて確信に迫る私に、兵長は言葉を最後まで言うことすら許さなかった。襟元を掴み引き上げられ、うまく息を吸えずに苦しんでいると、そんな様子の私に兵長はいつもの何を考えているのか分からない顔を向けた。


「…あ?てめぇふざけてると本当に削ぐぞ。」
「だ、だから前も言いましたが、兵長に削がれるなら本望です…!」


バサッと乱暴に離され、地面に着地する。病み上がりと言うかまだ上がってもないのに、本当にこの人は容赦ない。そんなところも好きだけど。


「……まぁ、そう思うんなら精々死なねぇことだな。」


そう言うと兵長は早くしろと部屋の退室を促した。…どうやら私の出発を見送ってくれるみたいだ。長い廊下を歩いている最中に、私は口を開いた。


「あの…それで、結局何故私に伝達係を任せてくれたんですか?」
「……もう、"新兵"じゃねぇーんだろ?たまには俺の役に立て。」


兵長はそう言って、馬に跨る私を見送った。




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