kuzu
首ったけ!2nd
少し先の未来に兵長と居られるのなら



兵長がバタンと扉を閉めてから、部屋には一瞬の静寂がもたらされた。私の中では兵長の声が何度も何度もリピートされている。…ナマエ、ナマエ、ナマエ。兵長がまた私の名前を読んでくれた。たったそれだけのことなのに、天にも昇る気持ちだった。


「ハンジさん、今の聞きました?聞きましたよね?」
「あ、ああ…確かに聞こえたね。からかうつもりで言ったのに、まさか本当にリヴァイの口からナマエの名前が…あははは!ナマエ、一体どんな魔法使ったの??」
「ま、魔法なんかじゃないですよ!」


104期の"新兵"(誰かに対してこう言うの、なんか気持ちいい)達そっちのけで騒いでいると、珍しく真剣な顔つきでエレンが口を開いた。


「…ナマエさん、俺ナマエさんに言わなきゃいけないことがあって…その、すみませんでした。」
「…え、?」


久しく見るエレンのその顔に、私も緩みまくっていた頬が思わず引き締まった。私、エレンに何か謝られるようなことしたっけ?


「俺が、あの時選択を間違わなければ…ナマエさんは怪我をすることもなかったし、他の先輩方だって…、」
「エレン、」


エレンの言わんとすることが分かって、私はエレンの前に駆け寄り両手をエレンの両肩に置き、向き合った。大きな瞳に私が映る。


「選択を間違えた、なんて思わないで。エレンがあの時あの選択をしたから、私もエレンも…他のみんなだってここにいる。生きてる。そして、私達は今出来る事に全力を注ぐ。…それが、命を賭けて闘った先輩たちに出来る唯一の償いだよ。」
「ナマエさん…。」
「だから、そんなに自分を責めないで。追い込まないで。私達は一人で闘ってるんじゃない。みんなで、闘ってるんだよ。」


そう言ってエレンの頭を撫でると、彼は哀しそうに笑った。きっと、今まで自分を責めてきたのだろう。全てを取り除くことは出来なくても少しでも楽になってほしい。そう思っていると、くっつきかけている腕の骨が再びさようならするのでは、と思うほどの激痛が走った。


「!!っつ…いった!!え、何?!」
「…ナマエさん、そういうことは兵長にして下さい。」
「何やってんだミカサ!?ナマエさんは怪我してるんだぞ!!」


私の腕を掴みながら、物凄い形相で睨みつけてくる女の子と目が合った。エレンから手を離すとすぐに私の腕からも激痛が消えたが、女の子の力とは到底思えなかった。しかし私も女として彼女の思いが理解出来たのであえて何も言わないでおく。もし、腕に何かあったらミカサのせいだけど。それをオロオロしながらアルミンが見ていて、そんなミカサと私を何やら意味深に見つめているのはジャンだ。兵長と共にここまで来たコニーは、お茶と一緒に出されたお菓子を食べるのに夢中なサシャに非難の目を送っている。そして、誰にも目を向けずただ黙って俯いているのは、今回のキーパーソンであるヒストリアだ。…新しいリヴァイ班。体は治りかけていても、心の傷はまだ深い内に新しい仲間だと言われても中々現実を受け止めることが出来ないけど、巨人は…敵は私達を待ってはくれない。前進あるのみだ。


「ねぇみんな!私思うんだけど、掃除もう一度した方がいいと思う!さっきも兵長に言われてたけど、今出て行ったのもきっとこの部屋以外の場所も掃除出来てるか確認しに行ってるんだと思う。私がさっきの内容を紙に書いてる間に、みんなは…、」


掃除をしておいてくれると、嬉しいな…と控えめに言うと部屋はまた静かになった。昔から、他人に指示したり人の上に立つのは苦手だ。どちらかと言えば新兵だと呼ばれていた時の方がまだ肩の荷が軽かった。だけど、そんなことも言ってられない。


「…まじかよ。あんだけしたのにまだ足りねぇのか…。」
「そもそもジャンのは掃除って言うのかな、なんて言うか…、」
「アルミンの言うとおりですよ!それにしても、お腹減りません?」
「あ?てめぇあんだけ食っといてまだそんなこと言ってんのかよ…俺なんて村から帰ってきてすぐに報告、それでここだからもうクタクタだぜ。」
「エレンは私と一緒に、庭の掃除。」
「あ?なんでまたお前と一緒なんだよ。」


それぞれ小言は言っていたものの、みんな以外にもあっさりと私の言うことを聞いてくれて部屋から出て行った。他の人たちもゾロゾロと帰って行って、部屋は私とハンジさんだけになった。ハンジさんは、私のことをジロジロと眺める。


「…あの、ハンジさん?何でしょう?あまり見つめられると気が散ると言うか、集中出来ないと言うか…。」
「ん、あぁごめんね。だけど驚いたなぁ。何があったか知らないけどナマエがまるで、急に頼もしくなったりあのナマエがリヴァイに楯突くようになったり、先輩として後輩に指示するなんて…ナマエがまるで兵士みたいだ。」
「…何言ってるですか、ハンジさん。私は元から兵士ですよ。」
「いやぁー、今のラウラと比較すると昔のナマエは兵士というより乙女だったね!巨人討伐もどちらかと言えばリヴァイの目に入るためにって感じだったし、リヴァイ命だったじゃないか!それが今はそれより大事なものが出来たみたい、と言うか…。それに、昔のナマエなら伝達係なんてちょこちょこ動き回る仕事、リヴァイ兵長と離れ離れになるなんてやだー!とか言って嫌がりそうじゃないか!」
「私、そんなに自分勝手でした?」
「自分勝手と言うより、リヴァイのことしか考えてなかったよね。」


否めないので黙っていると、ハンジさんがでも今のナマエの方が好きだよ、と言ってくれた。…その言葉、ハンジさんからではなく兵長から聞きたいところだ。


「だって、考えてもみてくださいよ…。巨人撲滅なくして、兵長との幸せな未来はないんですよ?少し先の未来に兵長と一緒に居られるなら、今ちょっとの間離れ離れになるくらい、へっちゃらです。」
「よく言ったナマエ!!」


ハンジさんはそう言うとガバッと私に抱きついてきた。背の高いハンジさんに少しふらつくとあぁごめん、と謝りながら支えてくれる。


「そうだよナマエ!!巨人さえ居なくなれば、リヴァイとの幸せな未来が待ってるんだ!!そんなナマエのためにも一秒でも早く事を起こさないとね!私もこうしていられない!!」


そう言ってハンジさんは飛ぶように去っていった。そうなんだ。巨人さえ居なくなれば、私は兵長と一緒に居られるんだ。するとハンジさんが閉め忘れた扉から何故か悲壮な顔をしたジャンがいてこちらを覗き込んでいたので、アルミンを呼んでくるように頼んだ。大方、兵長に掃除の件でこってり絞られたのだろう。私も、自分に与えられた仕事をこなさないと。




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