kuzu
首ったけ!2nd
本当は今すぐにだって兵長に認められたい



「…遅れたな。話が長引いたのと…それととんでもねぇゴミを拾っちまった。」
「ナマエさん!もう体は大丈夫なんですか!?」


猛反対する救護兵を押し切って、無理やり退院したあと、新しく編成されたリヴァイ班に合流した私は、早速兵長から"ゴミ"と紹介された。このことに何も触れずすぐに私のことだと認識している辺り、エレンは中々耐性がついてきたと思う。他の104期はどう反応すればいいか分からない、と言ったような気まずい雰囲気を醸し出していた。兵長のせいで、先輩の面目が丸つぶれだ。愛しの兵長でなければパンチの一つくらいはお見舞いしていたかも知れない、が彼は例外なのでとりあえず熱い視線を送っておく。


「まぁさっきも別の場所で言ったが…短い間に色んなことが起こったが当初の目標が変わったわけじゃねぇ。ウォールマリアの穴を塞ぐ。それさえ出来りゃ、あとは大抵のことはどうだっていい。隣のやつが巨人になろうが、とんでもねぇゴミが転がり込んで来ようがな…。」


そう言って兵長はチラリと私を見ながら紅茶に口を付けた。兵長はお忘れの様だがその紅茶はゴミと呼ばれた私が淹れたものだ。兵長の好みに合わせてブレンドし、蒸らし時間だって他の人とは違うナマエ特製兵長スペシャルティーなのだ。ここまでしてもゴミ扱いだなんて、いよいよ虚像の兵長(仮)が真実味を帯びてきた。


「アルミン、この前言っていたウォールマリアの穴を硬化で塞ぐ話…あれをもう一度しろ。」
「はい。」


先ほどの自己紹介でアルミンと名乗った金髪の少年が兵長に呼ばれ、口を開いた。


「従来なら20年かかると言われていた計画ですが、」
「に、20年…!?」


先ほど同様大人しく居ようと思っていた矢先、彼の言葉に驚き大きな声を上げてしまった。兵長以外のみんなが一斉に私を見る。兵長はティーカップに目線を落としたまま、「ほっとけ。続けろ。」と言ったがそれ以降の言葉は、全く耳に入ってこなかった。私は兵長に思いを告げた時、「巨人を倒すことが出来ればその時私はことを見てくれますか。」と言った。つまり、巨人を絶滅させたとき私はやっとスタート地点に立つことが出来るのだ。だからこそ、さっきの話ではないが目的は同じにしろ、私の闘う意識は方向を変えた。なのに、それに20年もかかるだと…?20年も経てば、私は女としての旬をとっくに過ぎてしまう。それに、兵長はどうなる…?兵長なんか立派なおじさんじゃないか…!もちろん兵長がおじさんになっても気持ちは変わらない自信があるが20年も待てない。本当は今すぐにだって、兵長に認められたい。


「…となると、ウォールマリアまでの行程は一日以下になります。…雲を掴むような話ですが。」


そこまで考えたところで、再びアルミンの声が頭に響いた。肝心の内容はあまり覚えていないが、エレンの巨人が硬化とやらの能力を持つ可能性がありそれを頼れば、20年かかる予定だった計画が一日で終わるらしい。…なんてこった。エレンはやっぱり、私の中で崇めるべき存在だったのだ。


「…やりましょう!そんな20年もちんたら待ってられません!!今すぐにでも!!」
「…ハンジ、てめぇは後ろから刺されるのを待つか?それとも刺される前に前から行くか?」


立ち上がり、萎えかけた闘志を再びメラメラと燃やす私をまた何時ものような蔑んだ目を向けて兵長は無視した。…今日の兵長はとことん私を無視するみたいだ。それでも構わない。何せ、巨人さえ絶滅させられればあとはこっちのものなのだ。


「両方だ…。両方、同時にしよう。」
「まぁ、エルヴィンならそう言うだろうな…。」


そう言って兵長は立ち上がった。そして、やっと私に口を開いた。


「おい、聞いたか新兵よ。そういうことだ。…てめぇ、何故今の話をメモしていない?会議の内容をメモしてそれを伝達するのがてめぇの仕事だろうが。」
「「「はっ、すみませんでした!」」」
「えっ?」


私に向けられたはずの言葉に対して、何故かその場にいた104期全員が反応した。…どういうこと?何かが可笑しい、そう思ったのは私だけではないようでその反応に兵長も不思議そうな顔をした。…ああ、そういうことか。兵長は私のことをいつものように"新兵"と呼んだ。それに本当の新兵である104期が反応したのは至極当然のことだ。ここでは、私は新兵ではなく文字通り中堅にあたるわけで。ということは私は先程の言葉に反応しなくても良い、と言うことになる。


「………。」
「てめぇ、無視を決め込むとはいい度胸じゃねぇーか。」
「私は、新兵ではありませんから。」
「………。」


やっと状況が読み込めたらしい兵長は深いため息をついて、「俺は本当の新兵にではなく、この使えねぇ新兵同然の奴に対して言っている。」と付け加えた。104期達はまた同情じみた目線を私に向ける。病院で会ってから、今まで感じたことのない兵長に対する怒りにも似た感情がまた再び舞い降りてきた。


「前々から思っていたのですが、私は新兵と言う名ではないのでそう呼ばれても反応することが出来ません。」
「てめぇごときが俺に反論するなんざ、随分偉くなったもんだな。」
「だってそうじゃないですか!好い加減名前で呼んでくださいよ!あの時みたいに!!」


ガタッと乱暴にテーブルに手をつくと、視界の中にクスクスと笑うハンジさんが見えた。


「そうだよリヴァイ?ナマエは十分活躍してるし、名実共にもう新兵なんかじゃない。…"あの時"って言うのは知らないけどそろそろ名前で呼んであげなよ。ナマエちゃん、って。じゃないとここにいる新兵みんなが反応しちゃうよ?」
「黙れクソメガネ…。おい、さっさと先程の会議の内容をまとめろ。出来次第、とっととそれを持ってエルヴィンのところへ行け。…ナマエ。」


兵長はそう言うと私を見ずにさっさと部屋を退室してしまった。さっきの怒りがスーッとどこかへいなくなり、代わりに心がじんわりと暖かくなるのを感じた。




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