kuzu
首ったけ!2nd
私にとってリヴァイ兵長は全て

ジャンを突き飛ばし、行き先も分からぬまま私は走り出した。微塵も想像していなかった思いがけない告白に、動揺が隠せない。今日は驚いてばかりだ。ハンジさん辺りが私に、ドッキリでも仕掛けているのだろうか。


団長から聞いた昇進の話もジャンの話も、すぐに心の整理をつけられるほど私は器用ではなくて。ただ、痛いくらいまっすぐに私を見つめて、気持ちを伝えてくれたジャンは…いつかの自分と同じだった。あの日、…女型と交戦した壁外調査のあとに決心した、私と同じ…。そして、私は気付いてしまった。好きじゃない相手に思いを寄せられても、どうすることも出来ないことを。私が思いを告げた日から、兵長もこんな気持ちを抱いていたのだろうか。だとしたら……。


いやいや、それより大事なことは昇進の件だ。私なんかが、班長になれるのだろうか…?別の班の班長になってしまえば、もう兵長の元で戦えない。…それで、いいのか?団長の話もジャンの話も、どちらも全然違うことなのに、嫌でも最後は兵長に行き着いてしまう。もう頭の中はグチャグチャだ。まだ自分でも赤いと感じる頬を誰にも見られないように俯いて走っていると、何かにぶつかってしまった。


「いってーな。ちゃんと前見て歩け、このクズ野郎。」
「す、すみません!…へ、兵長…?」


文句を言われ、どうやら人にぶつかってしまったらしいと気付き謝ると、その聞き覚えのある声に顔を上げた。見ると、兵長が私に巨人を見るような目を向けている。運が良いのか悪いのか、こんなタイミングで兵長にばったり出くわすなんて。思わぬ兵長の登場に、いつも以上に心臓がバクバクと音を立てる。


「聞いたのか?」
「え?あっ、昇格の件ですか…?エルヴィン団長から、聞きました。」
「そっちじゃねぇ。」
「…え?」
「いや、何でもない。…その顔を見れば分かる。てめぇは本当に、馬に良く好かれるな。」
「…何のことですか?」


兵長と私の話に食い違いを感じ、尋ねてみたが兵長は返事をしない。明後日の方向を向き何かを考えているようだ。リヴァイ班に配属されてから、度々見てきた兵長の考え事をしている時の顔を見ていると、もうこんな些細なことすら見ることが出来なくなってしまうのかも知れないと胸が痛くなった。


「…昇格の件だ。エルヴィンもそろそろ焼きが回ってきたようだな。てめぇのような役立たずを班長にするなんざ、俺には到底理解出来ねぇ。」
「………。」


想像がついていた兵長の言葉に、返すものが見つからない。こればっかりは、本当にその通りだと思ったからだ。リヴァイ班を離れたくない自分と、団長にかけられた言葉が嬉しく期待に応えたいと思っている自分。その狭間で揺れて、もう自分でもどうしたいのかさっぱり分からない。


「兵長、私なんかが…班長になれるでしょうか…?」
「班長になるような奴は、少なくともそんなこと聞いて来ねぇだろうな。俺が班員なら、そんな頼りねぇ班長は巨人の餌に差し出すが。」
「うっ…。」


痛いところを突かれて、ぐうの音も出ない。


「でも、私がリヴァイ班にいると士気を乱してしまうんですよね…?トロスト区の銃撃戦でそう言われて、私分かったんです。あの時は人員不足で本部とも離れて行動していたからどうしようもなかったけど、もしかしたら私はリヴァイ班に必要のない人間なんじゃないかって…。必要とされないところに留まるより、必要としてくれているところへ行った方が兵団のためにも、」
「てめぇに班長は向かねぇ。」


私の言葉を遮って、兵長は私を睨みつけながら言った。


「てめぇのような、いつもいつも自分のことしか考えてねぇクズは班長なんて以ての外だ。エルヴィンが何のつもりで言ったか知らねぇが俺には分かる。お前には無理だ。」


再度キッパリと言われ、真っ直ぐと見つめられる。その言葉に少しムッとして私も口を開いた。


「でも、兵長は私に選ばせるように、と団長に言って下さったんですよね?じゃあ私にどうしろって言うんですか?リヴァイ班にはいらない、でも班長にもなれないって私はじゃあどこへ行けばいいんですか?……いつもみたいに、ハッキリ言ってくださいよ!"お前みたいなクズ野郎、俺の班にいらない"って!そしたら私、リヴァイ班を未練なく辞めることが出来て…うっ、うぅっ、」


自然と溢れてくる涙を堪えながら言うと、背中に痛みが走った。兵長に両肩を抑えられ、壁に追い込まれたのだと気付く。さっきの出来事が嫌でもフラッシュしてしまう。


「…違うだろ。」


兵長は俯いていて表情が読めない。だけど、何だが切羽詰まっていてこんなに感情を剥き出しにしている兵長は初めて見るかも知れない。一体、何が違うと言うのだろうか。


「てめぇは言葉にしねぇと分からねぇばかりか、言葉にしても…何にも分からねぇーんだな。…俺のことも、お前自身のことも。てめぇは、班長なんかになれねぇ。よその班にも、異動なんかしねぇ。お前はどこの班に行ってもダメなんだよ。てめぇの面倒みれる奴なんか、俺以外に居ねぇーだろ…。だからナマエ、お前はそうやっていつまでも俺の班にいて、黙ってビービー泣いてりゃいいんだよ…!」


そう言って兵長は、乱暴に私を壁に押し付けるような形で両腕を離し歩き出してしまった。私はヘナヘナとその場に座り込む。…なに今の。どういう意味?団長の話にジャンの話、それだけでも頭がパンクしそうだと言うのに、それに今の兵長の話…、もう何がどうなっいるのかさっぱり分からない。


…ただ、一つ分かっていることは。今までも、そしてこれからも私が想いを寄せる相手はただ一人で。私にとってリヴァイ兵長は…全てだ。きっと、これ以外に重要なことってない。


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