kuzu
首ったけ!2nd
兵士の本職を捨ててしまうほど、自分を見失っていない

コンコン、とドアをノックすると「入りたまえ」といつもと変わらないエルヴィン団長の落ち着いた声が聞こえた。入室すると、外とは違ったピリリとした雰囲気に思わず背筋もピンとなる。そんな私にエルヴィン団長は微笑みかけた。


「長期に渡る任務、ご苦労だったね。疲れはもう取れたかな?」
「はい、お陰様で…。それで、私に何のご用でしょうか?」


緊張で思わず声が震える。私がここへ来たのは二回目だ。一度目は…そう、リヴァイ班へ配属されたときだ。あの時は兵長と一緒だったけど、今度は何だって言うのだろうか。…思い当たる節が多すぎて、逆にどれだか分からない。任務こそは辛うじて成功したものの、私はリヴァイ班でヘマばかりしていた。やっぱり、あの場所は私には早すぎたんだ…。


「率直に言おう。君に異動の話が出ている。」
「異動、ですか…。」


何となく想像がついた団長の言葉に、胸がストンと落ちるような感覚を受ける。左遷、と言うのだろうか。せっかく憧れの兵長の元で働くことが出来たのに、上手く成果を残せなかった自分が悔しくて堪らない。


「まぁ異動と言っても、昇格の方だが。来たるマリア奪還作戦に備えて、兵の募集をかけていることは君も知っているだろう。それに伴い、班編成も変えなければならない。多くの兵を失ってしまった中、君のようなたくさんの死線をくぐり抜けてきた兵士が、上に立つ必要がある。私の言っている意味が、分かるかい?」
「………。」


昇格、死線をくぐり抜けてきた兵士、上に立つ……私とは無縁の言葉たちが団長の口から飛び出し、私はまるで他人の話を聞いているような錯覚に陥った。団長は、呼ぶ相手を誰かと間違えたのだろうか。


「君を新しく構成された班の班長に、との声が上がっている。その気はあるかい、ナマエ?」
「わ、私が班長ですか…?」


驚いて目をパチパチさせる私に、団長は口角を上げて頷いた。


「む、無理ですそんなこと…。私なんかが、班長になれるはずがありません…。お声がかかったのは光栄ですがお断りします。」
「…そうか。それは残念だな。」


そう言うと、団長は私から目を逸らした。"残念だな"とは言葉だけで、ちっとも気持ちが込められていないことに気付く。


「だが私は、君に"出来るかどうか"と尋ねているのではない。その点はこちらが君なら出来ると判断したためにこの話が持ち上がった。私は、異動する気はあるかと言うことを聞きたい。」
「リヴァイ班を脱退すると言うことですか?」
「ああ、そうだ。リヴァイから離れる気はあるかい?」


そう言われ、思わず団長から視線を逸らす。兵長から離れる気なんて、そんなのないに決まってる。ここまで来るのにどれだけ苦労したと思っているんだ。強制的に左遷されるならともかく、自分から進んでリヴァイ班を脱退するなんて、そんなのあり得ない。


「…ありません。私はこの命を賭けても、兵長の力になって闘うと決めました。兵長のそばで、兵長の支えになりたいです。」
「君が班長になることで、人類が勝つ可能性が高まるとしても、かい?他の班員を別の班の班長にするには通常、元いた班の班長つまり君の場合リヴァイの許可がいるのだが、彼はその判断は君に任せると言っていたよ。」
「え…?」


団長の言葉に、目を丸くする。そんな私を見かねたのか、団長は話を続けた。


「さっきも、別の相手にこの話をしたんだが…、ナマエが班長になったと仮定しよう。そこに、ウォール・ローゼを壊すべく超大型、鎧が無知性を引き連れて現れた。人類最大のピンチだ。君もそしてリヴァイも、もちろん戦いに加勢する。…そこでだ、」


団長の方を向くと、団長は窓の方へと目を向けていた。何が言いたいのかさっぱり分からない。


「君とリヴァイはローゼを死守すべく最前線で戦う。そこで、リヴァイが負傷したとしよう。無知性が群がって絶体絶命のピンチだ。でも、君の力があればリヴァイは助かる。しかし、君が離脱すればローゼを破壊される可能性が一気に高まる。…もしそんな場面に直面したら、どちらを選ぶ?」
「そんなの、決まっているじゃないですか。ローゼを選びますよ。」


分かりきった質問に、即答すると団長は顔を私に向けた。まず、兵長が負傷するなんてあり得ないし、いつも助けられてばかりの私が兵長を助けるなんて場面、この先絶対に現れない。って言うか、私に助けられる程度なら兵長は元々負傷なんてしないだろう。私の疑心暗鬼な表情とは一転、団長はまた笑みを浮かべた。


「お言葉ですが団長、私は確かにリヴァイ兵長が大好きですがその前に兵士ですよ?兵士の本職を捨ててしまうほど、自分を見失っていません!」
「そうか。それは頼もしいな。その言葉を聞いて、益々君を班長にする意思が固まった。今一度、考えてみてはくれないか?」
「なっ…!」


団長の発言に、また言葉を失う。一体何でまた私なんかを班長に…!?そんな私の気持ちを汲み取ったのか、団長が口を開いた。


「作戦の失敗、部下の負傷、これらは全て班長の責任にあたる。しかし、時にはそれらより優先しなければならないことも出てくるだろう。さっき、君がリヴァイよりローゼを選ぶと言ったようにね。その辺りも臨機応変に対応出来る人間、それが班長だ。先程も言ったが、君にはそれが出来ると判断した。判断材料は君が調査兵になってから今までの全てだ。そしてその判断が間違っていたとは私は思わない。」


団長の言葉に、ゴクリと唾を飲み込む。


「すぐには首を縦に振れないだろう。…三日後、また同じ時間にここへ来てくれ。その時に返事を聞こう。」
「わ、分かりました…。」


団長に言われた言葉が、グルグルと頭を駆け巡る。私が、班長に…?そんなこと、考えたことすらなかった。リヴァイ班を脱退…?もう、リヴァイ兵長の傍で戦えないの…?ガクガクする足を引きずりながら、私は部屋のドアノブに手をかけた。


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