kuzu
首ったけ!2nd
私にはリヴァイ兵長しかいない

「兵長、あの…聞きたいことがあるんですが。」
「なんだ。」



ヒストリアの即位が終わり、各々解散していく足取りの中で兵長の姿を見つけ、私は声をかけた。あれから…ケニーを看取ったあの日から、兵長は少し元気がないように思える。だけど、いつも通りに振舞おうとしているのが目に見えて、それがすごく痛々しい。慣れない兵団のロングコートに身を包み、少し袖あまりになった自分の拳を握りしめる。



「礼拝堂に入る直前、兵長が私にかけてくれた言葉…あれは、私の兵長に対する思いの返事だと、そう受け取って良いのでしょうか。」
「何の話だ。」



兵長はそう言うと、視線を斜め右下に泳がせた。これは、誰かに助けを求めているサインだ。何度か見かけた兵長のその仕草に、気付かないフリをして下を向く。兵長にとっては不幸にも、私にとっては幸いにも、辺りは静まり返っていて人が来る気配はまるでなかった。



「はぐらかさないで下さいよ。兵長言ってくれたじゃないですか。『てめぇが壁外調査後に言っていたあの話…まだその気があるならこの闘い、死ぬ気で行け。』って!それってつまり、あの闘いに死ぬ気で行って私達が勝って…巨人を倒すことが出来たら、兵長は私のことを見てくれる、そう解釈していいんですか?」
「………………。」



私の言葉に、兵長は黙り込む。…こ、ここでだんまりなんて卑怯だ。私はあの言葉で、忘れかけていた気持ちを取り戻すことが出来たと言うのに。兵長はなんの気もなしに、ただの気まぐれで口にしただけだったのだろうか。



「その話の返事はもうしたはずだ。」



兵長はそう言って、前を向いた。…『それまで、てめぇが生きていたらな。』それが、兵長の返事だった。あの頃は、そう言われてそれで満足だった。泣きながら初めてキチンと自分の気持ちを告白した私に、兵長は私の右手を両手で握ってくれて。それだけで、今までの不安や恐怖が一瞬にして吹き飛んだことを今でも覚えている。…だけど、今は違う。私は、色々ヘマもしてしまったし遠回りもしたし、兵長とも対立してしまったけど、自分でもあの頃よりは1mmくらいは成長したと思っている。1mmくらいは…兵長とも近付けたと思っている。もう、そんな曖昧な返事では満足出来ない。



「それは…私が生きていたら、兵長が私の気持ちを受け止めてくれると言うことですか?」
「………………。」



兵長はまた口を閉ざす。見ると、眉間に皺を寄せ考え事をしているようだった。…そんなに、考えなければ分からないことなのだろうか。或いは、今後も同じ班で活動するに当たって、差し障りのない断り方を模索しているのだろうか。



「どう解釈するかはてめぇの勝手だ。」
「そ、それってつまり……!兵長、私そんなこと言われると期待しちゃうんですけど、それは期待していいってことですか?」
「……好きにしろ。」
「なっ…!そんなこと言って、あとで『やっぱりこの前の話は撤回だ、豚野郎。』とか言うのナシですよ!」
「よく分かってるじゃねぇーか。」
「そ、そんなことさせませんから、絶対に!私、意外とねちっこいですからね!言われたこととか、絶対に忘れませんから!」
「そりゃ厄介だな…。やっぱり今の内に削いでおくか?」
「ちょっと、兵長私で遊んでません!?」



さっきの沈黙から一転、柔らかい空気が私達を包み込む。寒い日にあったかい紅茶を飲んだ時のような、ほっこりする気持ちが胸の中に広がる。やっぱり私には、この人しか居ない。私には、リヴァイ兵長しか居ないんだ。



そこへ私達しか居なかった廊下に、遠くから数人の足音が聞こえてきた。その音は徐々に大きくなる。


「待てよ、本当にやるのかヒストリア?」
「何よ…エ、エレンだってやっちまえって言ってたじゃない!」
「ありゃリーブス会長の遺言っていうか、最後の冗談だろ?別に恨んでねぇんならやめとけよ。」
「こうでもしないと女王なんて務まらないよ。」
「いいぞヒストリア、その調子だ!」



もうすっかり耳に馴染んでいるみんなの声が聞こえてきて、そちらを向くと予想通りリヴァイ班104期の面々がこちらへ歩いてきていた。何故だか、全員顔に汗を浮かべ頬を引きつらせている。せっかく新しい女王が誕生したと言うのにどうしたと言うのか。



「あああああ!!」



すると、ヒストリアが叫び声を上げなからこちらへ向かってくる。その目は真っ直ぐと兵長を捉えていて。少し不安げな、それでも勇ましいその姿に危機感を覚えた私は咄嗟に兵長を守るように、前へ躍り出た。



ーーボクッ



突然肩に走った痛みに思わずしゃがみ込む。そこに間髪入れずに、頭上から様々な声が聞こえてきた。……一体、何が起こった?



「ハハハハハ!どうだ、私は女王様だぞ!?文句があれば、って…え?ちょっと…ナマエさん!?」
「オイ、ヒストリアてめぇナマエさんになんつーことしてやがんだ!女王だか何だが知らねぇが、」
「散々煽ってたのはお前だろうがジャン!…それにしても、何でナマエさんが倒れてんだ?」
「きっと、お腹が減って倒れたんですよコニー!私ももう倒れそうです!」
「…ナマエさんは兵長を庇って、ヒストリアのパンチを受けた。」
「お、オイ…そんなことしたら兵長にドヤされるぞ…。」
「た、立てますか?ナマエさん…。」



それぞれが色々なことを口にする中、ミカサの言葉が頭に響く。私が、ヒストリアのパンチを受けた…?最後のアルミンの声に顔を上げ、差し出された手に甘えるとヒストリアが謝りながら私の肩をさする。な、何で私がこんな目に…。幾ら小柄な女の子とは言え、ヒストリアも兵士だ。力いっぱいに殴られたそこはジンジンと痛む。



「ふふ…。お前ら、ありがとうな。」



すると、後ろから声が聞こえそれに驚き、後ろを振り返る。いつもは鋭い眼差しをしているその目尻を柔らかく下げ、への字になっていることが多い薄い唇の口角を上げて、兵長が笑っていた。その笑顔は、以前私が初めて兵長に思いを告げた時のモノよりも優しいくて。みんなは驚いた顔をしていたけど、兵長につられて私も思わず痛む肩を忘れて笑顔になった。


ーー…『みんながずっと笑っていられるような世界に、早くしたい。』
新しいリヴァイ班のメンバーとして、初めてみんなと会った時にこう思ったことを思い出す。そんな世界を築き上げるのにはまだまだ時間がかかりそうだけど、やってみせる。私なら、私達なら、きっと出来るはずだ。


私の隣には兵長やみんなが居て。それが当たり前だった。兵長には、憎まれ口を叩かれつつもたまに優しい時があって。みんなにとって私は、頼りない先輩かも知れないけど、それでもこんな私について来てくれて。これからも、みんなで力を合わせて巨人に立ち向かって行く。そんな日々が続くんだって、そう思っていた。少なくてもこの時の私は、本気でそう思っていたんだ。


前へ 次へ


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -