kuzu
首ったけ!2nd
兵長のために何が出来るだろう

「オイ、ナマエ。ボーッとしてんじゃねぇ。銃を構えろ。」
「はっ、はい!」



ロッド・レイスの巨人を倒し、硬質化と言う新たな武器を手に入れた達成感、それともう立ってることすらままならないような疲労感に襲われながら捜索を続けている私に、リヴァイ兵長が声をかけた。兵長は何だってまた私に、銃なんか持たせたのだろうか。銃を握る手が汗で滑るのは、きっと暑いからだけではない。ブレードは躊躇なく握ることが出来るのに、こればっかりは兵長に特訓をしてもらっても慣れなかった。…ブレードは巨人を削ぐためにあるのだ。でも銃は………。こんなこと、もう手を汚してしまったあとでは何の言い分にもならないけど。



「ケニー」



兵長のその声に、目の前を見るとそこには私達が探していたケニー・アッカーマン、その人がいた。木に背を預けて座り込んでいる彼は、最初に会った時の殺人鬼のような面影は消え、恐らくロッド・レイスが巨人化した時に負ったであろう深い傷に必死に耐えている。




「何だ、お前かよ。」
「…残ったのはアンタだけか?」
「そうみてぇだ。」



ケニーは兵長の姿を見ると、そう呟いた。そして、私の方にも一瞥するように目を向ける。



「大やけどにその出血…アンタはもう助からねぇな。」
「…いや、どうかな。」



そう言うと、ケニーは手元にあった木箱を開いた。その中身に、思わず息を飲む。



「ロッドの鞄から、一つくすねといたヤツだ…。」



息も絶え絶えになりながら、ケニーが言った。それを見つめる兵長。血を吐きながらも自分の思いを語り続けるケニーに、兵長は近付きその両肩に腕を置いた。私は言葉を発することも出来ずに、二人の数歩後ろで立ちすくむ。



「俺の姓もアッカーマンらしいな?アンタ本当は…母さんの何だ?」
「……ハッ、バカが…ただの兄貴だ…。」



その言葉に、兵長もそして私も言葉を失う。ケニー・アッカーマンが、兵長の叔父…?今まで、兵長の家族はもちろん、出生すら一度も耳にしたことがなかった。地下街出身とだけ小耳に挟んだが、それ以外のことは兵長は語らなかったし、聞いてもきっと答えてくれなかっただろう。それが今、断片的な情報がパズルのように繋がっていく。


兵長は、ケニー・アッカーマンと一時期住んでいたことがあった。だけど、彼が血の繋がった叔父だと言うことはたった今知った。と言うことは、そこにケニー・アッカーマンの妹…つまり兵長のお母さんは居なかったと言うことになる。身内と同居せずに、当時赤の他人であると思っていたケニーと一緒に住んでいたと言うことは、何か特別な理由があったのか、あるいは兵長のお母さんはもう……、



「…あの時、何で俺から去って行った?」



そう呟いた兵長の声は、か細くて。そんな兵長の胸にケニーは木箱を押し付けた。



「俺は、人の親にはなれねぇよ…。」



ケニーの出血は止まらず、意識も朦朧としてきているようだ。兵長の言うとおり、きっともう助からない。それでも、最後の力を振り絞ったようにケニーは私の方を向き、僅かに口角を上げた。



「……ナマエ、とか言ったか?こいつを、よろしくな。」



そう呟くと、ケニーはゆっくりと目を閉じ、やがて動かなくなった。



「………………。」



ケニーを発見してから、私は終始口を閉ざしていた。…どうすればいいか分からない。敵だと思っていたケニーが、実は兵長の叔父で。そしてそれをさっき知ったばかりなのに、家族を亡くしてしまって。兵長とケニーがどんな関係だったかなんて、私には一生分からない。だけどそこにはきっと、私なんかが分かるわけのない深い深い絆があったんだろう。言葉なんかでは表すことの出来ないものが……。私は今、兵長のために何が出来るのだろう。その小さな背中を見つめる。私はいつも、いつまで経っても兵長の背中ばかりを見つめているけど、こんな私が兵長のために出来ることって、何だろう…。



「兵長は、一人じゃないです。」



独り言のように呟いた言葉に、目の前
の小さな背中がビクッと反応する。



「私なんかまだまだ、兵長にとって特別な存在でも何でもないですけど、でも必ずいつかそうなってみせますし、今だって少なからず兵長の"仲間"ではあります…。だから、」



兵長は何も答えない。ただ黙って私の言葉に耳を傾けている。だけどそれでいい。緩やかに吹いた風が、私と兵長の間をすり抜けて行く。



「私のことも、頼ってください。一人で何もかも抱え込まないでください。兵長は、一人じゃないです。私が…みんながついています。私はいつも、兵長のそばに居ますから。」



それだけ言い終えると、私は居た堪れなくなり、「上へ報告してきます。」と言ってこの場を後にした。私の気持ちが、一体どこまで兵長に伝わったのか分からない。きっと兵長は、無理をしている。だけどそんなことする必要、これっぽっちもないはずだ。どうか、せめて私の前だけでも、兵長は兵長らしく居てほしい。今までの闘いや、兵長の苦悩を考えると何故だか涙が込み上げて来た。嗚咽を兵長に聞かれないように、必死に噛み殺して歩き続ける。兵長は、いつまでも私に背を向けていた。



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